8.あなたを待っている

3年生編第8話  揺れるホグワーツ特急の中を足早に歩いては各コンパートメントを確かめていく。二手に別れた彼らは、一方が先頭から、一方が最後尾から順番に進みほぼ真ん中あたりで再会した。
「いたか?」
「いない」
「寝坊して乗り遅れたとか」
「いつもあんなに早起きなのに?」
「……学校に連絡してみるわ」
 集まった5人のうち一人だけ女子がいて、彼女は言うなり運転手のもとへ歩き出す。
「待って、僕達も行くよ」
 眼鏡の男子がすぐに後を追うと、またそのすぐ後から3人の男子も小走りに追いかけた。
 運転室にいた車掌に事情を話すと、すぐに緊急連絡用のふくろうを貸し出してくれた。
 友人が乗り遅れたかもしれない旨を書いて、窓から放す。
 ふくろうは後方に流されていったが、たちまち列車を追い越してまっすぐにホグワーツ城へ羽ばたいていく。
 5人は心配顔でそれを見送っていた。

 コンパートメントに戻るなり、リリーは疲れたようにため息をつきシートに身を沈めた。
 去年もその前も目の前にいた友人がいない。
 落ち込む彼女を気にするように、4人の男子がもといたコンパートメントから移動してきていた。
 いつもなら断固拒否するのに、そんな元気もなかった。
 さすがにいつもうるさい悪戯仕掛け人の4人組も、不用意に口を開くことはしない。
 だが、しばらく続いた重い沈黙の後、リーマスがリリーに聞いた。
からは、何も聞いてないの?」
 リリーは力なく首を振る。
「……何も。教科書を買って、それっきり。あぁ、そういえばマグルの世界に遊びに行くとか言ってたけど、列車の遅刻の理由にはならないでしょう?」
「そうだねぇ」
 この列車のどこにもがいない。
 何か理由があって遅れるなら、きっと連絡があるはずだとリリーは思っていた。
「学校に着いたらすぐにマクゴナガル先生のところに行かなくちゃ」
 先生なら何か知っているかもしれないから、とリリーがやや思いつめた表情で言えば、
「もちろん僕達も一緒に行くよ」
 と、ジェームズが続いた。
 ホグズミード駅までの時間が、いやに長く感じたリリーだった。

 組み分けの儀式の間も、リリーはずっと浮かない表情でソワソワしていた。
 マクゴナガルは新入生歓迎会を取り仕切っているため、についての質問は全てが終わった後になる。
 いつもは楽しみな組み分けの儀式も、リリーはずっと上の空だった。
 それは食事の時にもおよび、何人かの友人が話しかけてきても「あぁ」とか「うん」とか生返事ばかり。しまいには風邪でも引いているのか、と心配させてしまった。
「ごめんね、風邪じゃないの」
「そう。それならいいんだけど。ところで、はどうしたの? 姿が見えないみたいだけど」
「うん……列車にもいなかったの。何か聞いてない?」
「ううん。でも、列車にもいなかったって……どうしたのかな。寝坊ってことはないよね。いつも早いもんね」
 やはり誰もが『寝坊説』を否定する。
 それほど、と朝寝坊は結びつかないのだ。
 その時、ダンブルドアの歓迎会の締めの言葉が始まり、2人はおしゃべりをやめて前を向いた。
「──管理人さんより、持ち込み禁止リストに追加があると連絡を受けた。各自掲示板を確認しておくように。それでは、解散!」
 その言葉を合図にリリーは勢い良く立ち上がると、大広間の扉へと流れる生徒の群に逆らって一直線に教師用テーブルにいるマクゴナガルを目指した。
「マクゴナガル先生!」
 声を上げて呼び止めれば、マクゴナガルは承知したように頷いてみせた。
 リリーは小さな期待を持って先生の前に立って見上げた。
 いつの間にかジェームズ達も集まっている。
「ミス・のことですね」
「はい」
「私の事務室へいらっしゃい」
 硬い声音のマクゴナガルに、リリーの胸に不安が広がっていった。
 思わず男の子達のほうを振り向けば、彼らもやや緊張した面持ちだった。
 マクゴナガルの事務室へ着くと、彼女はまずリリー達にソファを勧めテーブルに紅茶を出現させた。まずはそれを飲んで落ち着けというのだろう。
 それよりも早くのことを聞かせてほしい、とリリーの心は焦るが先生に逆らってはいけないと思い直し、ため息と苛立ちを押し殺してカップを手に取る。
 香りの良い紅茶を一口飲むと、リリーの焦燥感はいくらかやわらぎ、強張っていた肩や背中から余計な力が抜けた。
 それを確認したマクゴナガルが、ようやく口を開く。
「ミス・は聖マンゴ病院に入院しています。退院は、経過にもよりますがだいたい一ヵ月後でしょう」
「入院!?」
 驚きの声を上げたのはリリーではなくジェームズだった。
 リリーは息を飲んだままだ。
 マクゴナガルは冷静な表情のまま話を続けた。
「マグルの道路で交通事故にあったようです」
「あの……お見舞いには……」
 なんとか紡ぎだしたリリーの願いに、マクゴナガルは無情にも首を横に振る。
 がっくりと肩を落とすリリー。
 そんな彼女にマクゴナガルは気遣うように言った。
「まだ面会できるような状態ではないのです。でも、手紙なら私が届けましょう」
 その言葉にパッと顔を上げ、リリーは必死な顔で頷いた。
「事故にあったのはいつですか?」
「昨日です」
 シリウスの問いに答えるマクゴナガル。
 シリウスは一瞬意外そうな顔をした後、
「早くに見つけられて良かった」
 と、呟いた。
 その顔は言葉とは反対に「腑に落ちない」と言っていた。
 事務室を後にしてからもシリウスは難しい表情のまま、会話にも参加せず何かを考えている様子だった。
 階段を上っている途中で、慌ててピーターがシリウスのローブを引っ張る。
「そこ、だまし階段だよ」
「お? おお……サンキュ」
「さっきからどうしたの? いつもなら目をつぶっていたってこんな階段に引っ掛からないだろうに」
「ん……あのさ、さっきのマクゴナガルの話なんだけど」
 まだまとまらない考えを無理矢理まとめるように、ゆっくり話し出すシリウス。
 彼の足が止まったので、自然とみんなの足も止まる。
「昨日事故にあったヤツが……それもマグルの町にいたヤツが、そんなに早く見つかるものなのか?」
「たまたま早くに見つかったんじゃないかな」
 ピーターはマクゴナガルの言ったことを何ら疑問に思っていなかった。
 早くに発見されて治療を受けることができて、は運が良かったと思っている。
 他のメンバーも概ね同意見だ。
「いったい何を気にしてるの?」
 リリーの問いに、シリウスはくっきりと眉間にシワを刻む。
「あいつ、ヘンなことに巻き込まれてないよな、と思って」
 みんなの心に不安がわいた。
 フラフラとどこか危なっかしい友人。
「……手紙、出そうかな」
 ポツリとこぼしたリリーの言葉に、男の子達も頷いた。




 白い世界の終わりは、知らない世界の始まりだった。
 目を開けたが最初に感じたのは違和感。
 ムーンバスケット2号棟の自室の天井はこんなに白くないし、ベッドもこんなにフカフカではない。もう少し粗末だ。
 まだ白い世界の続きなのか、と体を起こそうとしたとたん脳天を突き抜けるような痛みに襲われる。
 ウンウン唸っていると部屋のドアが開かれ、誰かが入ってきた。
「目が覚めたのね。気分はどうですか?」
 薄いエメラルドグリーンの看護士の制服を着た中年女性だ。
 それを不思議に思いながらも質問に素直に答える
「体が痛くて最悪の気分」
「あぁ、まだ起きるのは無理ですよ」
「ここは病院?」
 ようやく痛みの余韻がおさまってきたので、今度はから質問をする。
「ええ。あなたは交通事故にあってここに運ばれたのです」
「交通事故?」
 記憶にない、というのがの正直なところだった。
 だいたい自動車のない魔法界で交通事故とは? 箒に乗っていて衝突でもしたのだろうか。
 の混乱を読み取ったのか、看護士は安心させるように微笑んだ。
「きっと今は事故のショックで記憶が混乱しているのね。体が良くなれば少しずつ思い出していくと思いますよ。……もっとも、事故の記憶なんてないほうがいいのかもしれませんけれど」
 彼女の言うことももっともだ。
 けれどはこのことをひどく残念に思った。
 せっかく両親に関する記憶を取り戻したというのに、またしても記憶をあやふやにしてしまった。
 こんな話をしているうちに再びのまぶたは重くなっていく。
 まだ聞きたいことがあるのに、どんどん眠りに引きずり込まれていく。
「大丈夫、安心して眠っていいのよ。おやすみなさい」
 看護士のやさしい声は、まるで眠りの呪文のようだった。

 それから何度も短い覚醒の時間を繰り返した。
 ようやくまともに意識を保っていられるようになった時、それは体を起こしても激痛が走らなくなった時だった。
 ぼんやりする頭で何を考えるでもなくポタポタと落ちる点滴の雫を眺めていると、覚醒のたびに様子を見にくる看護士が現れた。
 彼女はを見るなりニッコリ微笑む。
「ずいぶん顔色が良くなりましたね」
「こうしていても痛くないよ」
「それは良かった。でも、まだベッドから下りてはダメですよ。担当医から許可が出てからでないと」
「今日は、怪我のこととか聞いてもいい?」
 の起きていられる時間が短かったせいもあるが、何故かずっとこの手の質問には答えてもらっていなかった。
 けれど、看護士が頷いたので今日は答えてもらえる。
「では、私は今から担当医のところへ行ってきますから、お話はその時にね」
「はい」
 彼女の口からでも言えるのだろうが、そこは病院の規則というものなのだろう。
 察したは素直に従った。
 看護士が出て行ってしばらく待っていると、彼女とあまり年齢の変わらない癒者を伴って戻ってきた。
 愛想の良い看護士とは反対に愛想のない癒者だったが、話はわかりやすかった。
 はマグルの町で交通事故にあったため、始めはマグルの病院に収容されたが、すぐにダンブルドアに連絡が行き、聖マンゴ病院へと移されたらしい。魔法薬治療によりの外傷はほとんど癒えたが、内臓へのダメージはまだ残っている。幸い脳に損傷はないので、安静にしていればまた前のように動けるようになる、とのことだ。
 ダンブルドアに連絡が行ったということには驚いたが、おかげで肝心のことを思い出すことができた。
「あの、今日は何日? 私、どれくらいここにいたの?」
「今日は9月8日だ。キミは3日間意識不明で、その後は短い覚醒を繰り返していた」
「よ、8日!? どうしよう、学校……!」
 がベッドの上でオロオロしはじめると、看護士がそっと肩を押さえて落ち着かせようとする。
「あなたをここに移したのはダンブルドアですよ。心配はいりません」
「あ、そうだった……」
 そう聞いたばかりなのに慌ててしまったことに、は恥ずかしくなってうつむいた。どうやらまだ頭の働きが鈍いようだ。
 続けて看護士は嬉しいことを言ってくれた。
「これから学校にあなたが目覚めたことを連絡します。明日以降に先生がお話に来てくださるか、お手紙を送ってくださるはずですよ」
 できれば会いにきてほしいな、とは思うが先生もヒマではないだろうからワガママは言えない。
 きっとマクゴナガルが会いにくるなり手紙をよこすなりするのだろうけれど、学校の様子を教えてくれるならあの先生でもいいと思った。
 それに、リリー達にも回復していることを伝えたい。やきもきしているだろうから。
「食事はまだしばらく点滴で。それと、キミには一日一回血液パックを支給するから、それを飲むように。治りが早まるからね」
 淡々と紡がれた癒者の言葉に、とたんにの背筋にひやりとしたものが走った。
 びっくりして癒者を凝視していると、彼は不審そうに片方の眉を上げる。
「質問でも?」
「いえ、あの、私の体質のことを……」
「ここはいろんな人が来るからね」
「はぁ」
 癒者はそれ以上は何も言わなかった。
 起きている時間が長くなるようになると、とたんには暇を持て余しはじめた。
 しかし、癒者からはまだ読書は禁じられている。許されたのは、せいぜい幼児用の絵本だ。
 視覚情報というのはが思う以上に体に負担をかけるらしく、外傷はほとんど癒えたものの内臓をひどく傷めてしまった身には慎重に慣らしていかなくてはいけない、と言われたのだ。
 それでも納得のいかないに、癒者は本を1冊渡した。物語だ。
 読み始めただったが、ほんの2、3ページで吐き気をもよおしてしまったのだった。
 それ以来は癒者の言うことは聞くようになった。
 ぼんやりと過ごした数日後、担当看護士が面接の知らせを持ってきた。
 学校に連絡すると言っていたから、マクゴナガルが来てくれたのだろうと思っていたら、なんとダンブルドアまで一緒だった。
 たかが一生徒のために校長が来るのはおかしい、とは訝る。
 学校内や、学校側による不祥事でもないのに。
 けれど、2人の顔を見たとたんは懐かしいやら恥ずかしいやらで、うまく挨拶すらできなかった。
 気をきかせた看護士が出ていったことにも気づけない。
 慌てるに、珍しくもマクゴナガルが微笑を浮かべて声をかけた。
「具合はどうですか。まだ痛むのですか?」
「いいえ、もう痛みはありません。まだ、動き回ることは禁じられていますけど」
「そう……大変でしたね。あなたのことを知った時は心臓が潰れるかと思いました」
「ご心配をおかけしまして……」
 マクゴナガルの言葉に嘘はないのだろう。本当にホッとした顔をしている。
 それからはリリー達はどうしているかを尋ねた。
「元気がありませんね。そうそう、手紙を預かっています。みんな、あなたの帰りを待っていますよ」
 マクゴナガルがバッグから4通の封筒をに差し出した。どれもパンパンにふくらんでいる。
 差出人は、リリー、悪戯仕掛け人、アデル、クライブだ。
「カードも預かってますから、ここに。お菓子もありますが、まだ無理でしょうから許可が下りたらお食べなさい」
「ありがとうございます。それにしても、こんな事故なんかにあって本当に残念。今年こそ先生の最初の授業で完璧に変身魔法を披露しようと思ったのに」
 がおどけて言うと、マクゴナガルはちょっと顎を上げて笑った。
「それは私も残念でしたね。退院したらその腕前をたっぷり見せてもらいましょう」
 思えば、この先生とこんなふうに話すのは初めてだ、とは思った。
 マクゴナガルとお話、と言えばいつもお説教だった気がするからだ。
 笑いがおさまり手紙を開こうとしただったが、その前にダンブルドアが話を始めた。
「キミに知らせておかなければならないことがある」
 重い響きの声と、瞬時にして沈んでしまったマクゴナガルの表情に、は良くない話なんだと察した。
「まず、キミの住まいはムーン・バスケット1号棟へと移動になった。持ち物はすでに移してある」
 予想外の話についていけず、はポカンとした顔になる。
「どうして移動に?」
 当然な疑問を発するに、ダンブルドアはわずかに目を伏せ声を落として告げた。
「ムーン・バスケット2号棟は、もうないからじゃ」
「ないって……どこにいっちゃったんですか?」
「死喰い人の襲撃を受けたのじゃよ」
「死喰い人の!? いつ来たの?」
「8月31日じゃ。その日、キミはムーン・バスケットを留守にしていたね。マグルの町にいたはずじゃ。そこで、交通事故にあった……」
 31日、ムーン・バスケット2号棟が死喰い人の攻撃にあったという話を聞いたダンブルドアは、真っ先にの安否を確かめた。
 管理人室にあった外出届からがマグルの町にいることを知ったダンブルドアはひとまず安心し、マクゴナガルに連絡して共に捜索を始める。てっきり元気でいると思ったは、しかし交通事故でマグルの病院に搬送されていて今にも死にそうだった。ダンブルドアはすぐにを聖マンゴ病院へ移した。
「キミの事故の原因は、居眠り運転のトラックが交差点に突っ込んできたせい……らしい。わしも聞いた話なんでの」
 そう言われても、は覚えていない。
 ショックでものも言えないに、ダンブルドアはやや厳しい目で聞いた。
「死喰い人がただ襲撃に来たのかどうか、知っているかね? 行方不明者がやけに多いのでの」
「あ……一度だけ、闇の陣営に来ないかと誘いに来ました」
 気の抜けた声のの返答に、ダンブルドアは低くうなる。マクゴナガルの顔は緊張している。
「では、殺された者達は勧誘を断った者達と考えてよいじゃろうな。そして行方不明者の大半はおそらく……」
 闇の陣営に走った。
 はハッと顔を上げると、何か恐ろしいものに追い詰められているような気持ちでダンブルドアに問いかけた。
「あのっ、ウィリス……ウィリス・ブーディロンという人がどうなったか知ってますか?」
「ウィリス……? ああ、その名前は確か……」
 言いかけてやめるダンブルドア。
 の心に恐怖が広がっていく。嫌な予感がする。
 それを口にしてはいけないのに、口にしてしまった。
「死んじゃった……?」
 ダンブルドアもマクゴナガルも俯いた。2人とも、が尋ねた時点でその人物とが懇意にしていたとわかったから、口が重くなってしまったのだ。
 にとってはそれが答えだった。
「闇祓いは来なかったの? 管理人室からホットラインが繋がっているはずなんだけど」
「連絡は、なかったそうじゃ。全てが終わった後に気付いて駆けつけたそうじゃよ。ウィリス・ブーディロンは、ずいぶん抵抗したらしいの」
 瞬間、の中の恐怖は怒りに変わった。
 ベッドを叩いて怒鳴り散らす。
「どうして!? 管理人はいつも言ってた! ここで騒ぎを起こしたらすぐに闇祓い局に連絡してお前ら全員アズカバン送りだって! なのにどうして肝心の時に……っ。あいつ、怖くなって逃げたんだ、そうでしょ!」
 噛み付くように問うに、ダンブルドアは何も答えず静かな目で彼女の怒りを受け止めている。
「闇祓いが間に合っていれば助かったかもしれないのに……」
 うつむき、肩を震わせるの背をマクゴナガルがやさしく撫でる。
 は白い世界で会ったウィリスを思い出していた。
 あれは、別れを言いに来たのだ、と。
 まただ、とは思う。
 また、魔法省だ。
「魔法省は、私から大切なものを奪ってばかりだ。父さんも母さんも、ウィリスも。許さない……許さないっ。あの管理人、仕返ししてやるっ。魔法省なんか破壊してやる! あんなもの、壊れてなくなってしまえばいいんだ!」
、落ち着きなさい……」
「マグルの友達から引き離して、無理矢理を私をここに連れてきたくせに! ヘンなとこに閉じ込めてさんざん脅してたくせに、肝心な時に一番に逃げ出して! 両親を殺して、友達を殺して! ……私はずっと、あそこにいたかった……魔法界なんて、来たくなかった……!」
 背を丸めて声を荒げる。その声はしだいに絞り出すようにかすれていく。
 その時、ドアの向こうから足音が近づいてきて、看護士が入ってきた。
「先生方、患者を興奮させては困ります! 今日はここまでにしていただけますか」
 有無を言わさぬ看護士の口調に、ダンブルドアとマクゴナガルも従うほかない。
 ダンブルドアはの頭を一撫でする。
「落ち着いたら、また話をしよう。まだ相談したいこともあるからのう」
、あまり悲しいことを言ってはいけませんよ。エヴァンズもポッター達も、みんなあなたの帰りを待っているのですから」
 マクゴナガルの労わる声が続く。
 しかし、うなだれたからの返事はなかった。
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