ジェームズは朝からご機嫌だった。
それもそのはず。今日は大好きなリリーに会える日だからだ。
そして迷惑なことに「リリーに会うのに遅刻は許されないよ!」などと言って、待ち合わせの時間にはまだまだ余裕があるというのに皆をせかすのだ。
自分達と約束した日のあの遅刻はいったい何だ、と誰もが問い詰めたい気持ちだったが、どうせ何を言っても無駄なので口を閉ざしていた。
準備を終えたがリビングへ下りていくと、ジェームズの両親も含めてすでに全員がそろっていた。
「それじゃ、我らがリリーのところへ急ごうか!」
ジェームズの頭には、もうリリーのことしかないようだ。
達は顔を見合わせると苦笑した。
それから、ジェームズの両親にお世話になったお礼を言い、5人は暖炉から『漏れ鍋』へ飛んだ。
は荷物を抱えながら、最後まであたたかかったジェームズの両親を思い、幸せに浸った。
待ち合わせまではまだ30分もある。その間、5人は『漏れ鍋』の隅のほうのテーブルを陣取り時間を潰すことにした。
「は教科書を買ったらすぐに帰るの?」
リーマスに問われ、は頷いた。が、ふと他の用事を思い出す。
「あ……っと、制服の新調に行かないとダメだ」
「あ、そうか。僕もだ」
リーマスが手を打てば、全員がそうだったとそのことに気付く。
さすがに1年生のサイズは少し窮屈だ。
不意にが小さく笑った。
こぼれた笑い声に気付いたピーターが不思議そうにを見つめた。
「あのね、卒業する頃には皆どれくらい大きくなるかなって思ったら、ちょっと楽しくなってきちゃった」
「そうだったんだ。そういえばさ、僕思うんだけどSの付く人は学年が上がるにつれて、いろいろ大変になっていく気がするんだよね。ほら、1年生の時もいろいろあったでしょ。表立ってはないけどさ。なら僕よりもっと耳にしてるんじゃない?」
気のやさしい少年だとばかり思っていたが、少し意地悪そうに笑うピーターに彼も『悪戯仕掛け人』の一人なのだとは改めて認識した。
ピーターが言いたいことはにはピンと来たが、あとの3人にはわからなかったようだ。
シリウスは最初のとっつきにくさが消えると、しだいに人気が上がってきた。グリフィンドールに振り分けられたばかりの頃は予想外の事態故に注目されていたが、本人の複雑な心中そのままに難しい態度で周囲に接していたため敬遠されがちだったのだ。
だが悪戯仕掛け人として校内を騒がせ始め、彼が本当はどんな人物かがわかってくると、端正な容姿の効果もあってか特に女子達に噂されるようになっていった。もしかしたら告白なんかもされているかもしれない。
今はまだ1年間しか在学していないからそれほどでもないが、このまま学年が上がれば確かに想像もつかないような大きなことが起こりそうだ。
「アイドルみたい。写真撮ったら売れるかな」
「ッ、何てことを。見つかったら半殺しだよ」
「半殺し……あぁ、でも半分生きてるなら……」
「ちょっと目を覚ましてよっ。お金に目がくらんじゃダメだよっ」
「お前ら何の話してんだ?」
いまだにピーターとの会話の内容に首を傾げるシリウスが、ついに口を挟んだ。
2人はピタリと動作を止め、シリウス達を見やると曖昧な笑みを返した。
その笑みに何か陰謀でも感じたのか、とたんに胡乱げな眼差しになるシリウス。
正直に話さないと長引きそうだ。
「えーとね、人気急上昇中のシリウス君の写真を売ったら儲かるかなと思いました」
やや棒読みに説明する。
案の定シリウスの表情はみるみる険しくなっていった。
氷のような目でを睨みつけながら、地を這うような声で聞き返すシリウス。
「お前……金欲しさに友達売る気か?」
「そんな人聞きの悪い……」
一応言い返すものの、の声は弱々しい。完全に押されていた。目もそらしている。事実なのだから仕方がないか。
「だよなぁ、そんなことするわけないよなぁ?」
「でもね、実際のとこシリウスだけじゃなく、アンタ達けっこう人気あるんだよ。皆の写真欲しいって人、いると思うんだよね……」
「え、それって僕達のこと?」
自分は関係ないと決め込んでいたジェームズ、リーマス、ピーターがびっくりしてを見る。
「ピーターはシリウスのことだけ気付いたみたいだけど、女子の間では悪戯仕掛け人ってけっこう人気出てきてるんだよね。あ〜あ……ダメかぁ」
「当たり前だ」
即答するシリウスを恨めしげに見たは、続いて3人の男子に期待するような目を向けた。
「うーん、やっぱり誰ともわからない人に自分の写真を持たれるというのは……」
やんわりとリーマスが言うと、ジェームズとピーターも同意するように頷いた。
かと思った瞬間、ジェームズが短く叫んだ。
「そうだ! リリーの写真なら欲しいなっ。同室のなら簡単だよね。そして僕の写真をリリーに……」
「お断りよ!」
夢見るような顔のジェームズの呟きに、冷水のごとき声を浴びせたのはそのリリー本人だった。
話に夢中になるあまり、彼女が来たことに誰も気付いていなかったようだ。
「リリー! 元気だった? 会いたかったよ!」
満面の笑顔で席を立ったジェームズはリリーの手を取ろうとしたが、彼女はするりと避けての隣に座った。
「皆、久しぶり。元気そうで何よりだわ。あ、これ旅行に行ったお土産なの。後で食べてね」
そう言ってリリーがカバンから出して一人一人に配ったのは、かわいい紙に包まれたクッキーだった。
その包装からけっこう高級な店のものだとうかがえる。
が嬉しそうにお礼を言うと、リリーもホグワーツの時と変わらない笑顔を返してくれた。久しぶりに見たその笑顔に、は不思議な安堵を覚えた。
思いも寄らない贈り物にすっかり舞い上がってしまったジェームズは、一つだけ食べて後は永久保存にするだのとブツブツ言っていた。
それを呆れ顔で見るリリー。その目は「もう勝手にしたら」と言っている。
いつものやり取りが出たところで6人は店主のトムに荷物を預かってもらい店を出た。
ダイアゴン横丁に入ると、話し合いの結果彼らはいったん別れることになった。
まずはグリンゴッツ銀行へお金を引き出しに行かなくてはならない。リリーは両替に。男子4人はお金を持っているのでその必要はない。
「じゃ、僕達は先にマダム・マルキンのとこに行ってるよ」
ジェームズ達の寸法取りが終わる頃にはリリーとも店に着くだろう。
銀行への道を歩きながらは初めてここに連れて来られた日のことを思い出していた。
魔法界にちっとも馴染むことができず、ホグワーツに行く気もなかったに半ば無理矢理入学準備をさせたのはウィリスだった。
今思うと、さぞ手を焼いたことだろう。
あの日は一日中ムスッとしていたはずだ。
けれどあの頃のには仕方のないことだった。
無愛想にも関わらず、人通りの絶えないダイアゴン横丁ではぐれないようにと、ウィリスはずっとの手を握っていた。
「……? 何、にやけてるの?」
リリーの声に、の思い出の光景は消えた。
「何でもないよ。私、にやけてた?」
「うん、何かたくらんでるような……」
「たくらんでないって! もう、人相悪いみたいに言わないでよ。ほら、銀行が見えてきたよ」
睨むような小鬼に迎えられて2人はグリンゴッツの扉をくぐった。
できるだけ並んでいる人の少ない列を探し、そこに滑り込む。
「私のほうが先に終わるわね。そこのソファで待ってるわ」
「先に行っててもいいよ」
「そんなことしたらアイツに絡まれるじゃない」
もはや名前を呼ぶのも嫌なのか。
はジェームズを少し気の毒に思った。
「そんなに嫌い?」
「嫌いというか……苦手だわ。何を考えているのかわからないんだもの。悪戯にしても、その……一部の人達への態度にしても」
悪戯の対象になっているのは、スネイプだけではない。
「魔法界の遊びって、マグルの感覚からするとちょっと過激だよね」
「うん。爆発がとても身近だわ」
は爆発スナップで眉毛が焦げてチリチリになったグリフィンドール生を思い出した。
それから、罰ゲームとしか思えないお菓子の数々。
去年のホグワーツ特急でリリーやピーターと食べた百味ビーンズは、あれ以来一度も口にしていない。雑草味やらカブトムシ味はもうお腹いっぱいだ。
おしゃべりしていると列はあっという間に縮まり、2人の順番が迫ってきた。
のほうが時間がかかるから、とリリーは彼女を前に立たせた。
相変わらず小鬼は疑り深い目でに接する。誰に対してもこうなのだ。これくらいじゃないと銀行員は務まらないのかもしれない。
そして、何とかという名前の小鬼に案内されてはトロッコに乗って金庫まで滑り下りていった。
リリーとが『マダム・マルキンの洋装店』に着くと、男子4人は店の外で待っていた。どうやらやるべきことは終わってしまったようだ。
「待たせちゃったね、ごめん」
「今出てきたばかりだよ。それより制服買ってきなよ」
の謝罪にリーマスが店のドアを指差す。
「すぐ戻ってくるわ」
そう言ったリリーに手を引かれ、は店の中へ入っていった。
どんな魔法がかかっているのか、店内はひんやりと涼しかった。そういえば銀行も涼しかった。
店の奥に進んでいくと、店長のマダム・マルキンが笑顔で2人を迎えた。
一年前と変わらない笑顔だ。
は彼女の笑顔がけっこう好きだ。
「いらっしゃい。制服の新調に来たのね。さ、ここに立って」
杖の店のオリバンダーと同じく、マダム・マルキンも一度来た客の顔は忘れないのだろうかと、踏み台の上に立ちながらは思った。
魔法仕掛けのメジャーがの体の各所のサイズを測っている時、ふと思いついた。
「あの、マダム・マルキン。制服なんですけど、大きめに作ってもらえますか? えーと、2、3年は買い換えなくてもいいくらいに」
「いいけど……それだと今年は動きにくいと思いますよ。裾上げしてもどうかしらねぇ」
マダム・マルキンは大きすぎる服は着心地が悪かろうと言うが、はそれでもいいと言った。
客にそう言われては了承するしかない。
隣の台に立つリリーが怪訝な顔をしていた。
「新調しなくてすむと、その分お金が浮くでしょ。学費として支給されるお金は返さなくていいみたいだから、浮いた分お小遣いになるんだ」
「……たくましいわね」
「ふふふ。これくらいしないと欲しいもの買えないもん」
「欲しいものがあるの?」
「うん。本なんだけどね。今日は無理だろうけど、そのうち買いたいんだ」
「取り置きできそうなら頼んでみたら?」
「それいいね! 取り置きのことは考えてなかったよ。ありがと、リリー」
バイトの帰りに書店に立ち寄り、ずっと欲しいと思っていた本がある。この夏のバイト代で何とか買えそうな値段の本だ。
最初のうちは立ち読みしてがんばって暗記しようと試みたのだが、そんな易しい内容ではなく断念したのだった。
全てのサイズを測り終えるとメジャーは自動的に巻戻り、作業台の上に戻っていった。
「それじゃ、二時間くらいしたらまた来てくれるかしら? 都合が悪いなら後日でもいいですよ」
そう言うマダム・マルキンに、今日中にまた来ると告げて2人は店を出た。
この暑い中、ジェームズ達は待ちくたびれているだろう。
案の定、店の前で4人は額に汗をにじませながら待っていた。
すぐに気付いたジェームズが、早く教科書を買いに行こう、と2人をせかす。涼しいところに入りたいのだろう。
リリーとはどちらともなく顔を見合わせると、リリーが代表して4人に提案した。
「ねぇ、どこかで少し休んで行かない? 暑い中待たせちゃったから、お詫びに冷たいものでもおごるわよ」
「リリーがおごってくれるの!?」
走り出しかけていたジェームズの足がピタリと止まり、期待に輝いた目でリリーへ振り返る。
その目に思わずたじろぐリリー。
目をそらしそうになるが、ここはやはりお礼をするのが礼儀だろうとこらえた。たとえ苦手な相手でもだ。
「た、ただの気持ちよ。それに私も休みたいし」
それでも逃げ腰のリリーに、思わずは小さく笑ってしまった。
直後、足を踏まれた。
そして6人は休憩のためアイスクリーム・パーラーへ向かうことになった。
約束通り、代金はリリーとで半分ずつ出し合う。
リリーはの金銭事情を思い、全部自分で持つと言ったのだがはそれを断った。それくらいのお金はある。
「施設の仲の良い大人がね、たまにくれるんだよ」
「大事にとっておけばいいのに」
「何言ってんの。こういう時に使わないでいつ使うのさ」
制服代をケチったわりに執着しないの使いっぷりに、リリーもとうとう折れたのだった。
ちなみにこの会話はリリーとの2人だけの会話だ。男子4人は外で6人分の席を確保してくれている。彼らもまさかもお金を出しているとは思っていないだろう。
トレイに色とりどりのアイスクリームを乗せて外へ出ると、ジェームズが待っていてリリーの持つトレイを引き受けた。
席は端のほうのを取っていた。
何でもない顔をしていたが、ずっと炎天下にいたのだからやはり暑かったのだろう。ジェームズ達はものも言わずにアイスクリームにかぶりついていた。シリウスだけはアイスコーヒーだったが。
はレモンシャーベットとバニラレーズンのダブルアイスを食べながら、アイスコーヒーを少しずつ飲むシリウスに話しかけた。
「シリウスはアイスもダメなの?」
「ダメじゃないけど、今は飲み物が欲しいんだ」
「ふぅん。そっか、アイスクリームは平気なんだね。生クリームケーキとかチョコレートたっぷりのケーキとかマドレーヌとかマフィンはダメだけど」
「……聞いてるだけで胸焼けしそうだな」
「冷たさにごまかされるのかな」
「そうかも」
「なるほどねー」
「……何をたくらんでる?」
「ちょっと、シリウスまでそう言うの!?」
の向かい側のリリーがクスクス笑った。
しかし、銀行に向かっていた時のことなど知らないシリウスは、きょとんとして首を傾げた。
その様子がにはかえって憎らしく映り、愚痴るようにその時のことを話した。
そうしたら、何かがツボだったのだろう。シリウスは大声で笑い始めるではないか。
「笑い事じゃないよっ。2人とも、私のことどういう目で見てるわけ?」
「でもさ。今は仕方ないんじゃないかな」
遠慮がちな態度のわりには口の端を笑いに引きつらせながらピーターが加わった。
ピーターは自分の目元を指して続ける。
「サングラスが全部そういう方向へ持ってっちゃうんだよ」
はハッとなった。
そうかもしれない!
「あ、けど、似合ってるよ」
愕然としているに慌ててピーターはフォローを入れたが、の耳には届いていなかった。
いろいろあったが一休みしたおかげで元気を取り戻し、一行は教科書を求めて書店へ向かいはじめた。
途中、は視界の端に古書店を見た。
とたんに思いつく節約の法。
「待った! 私、先にあっちを見てくるね。皆は先に行ってて」
あっち、と古書店を指差され、5人は不思議そうな顔になった。
しかしすぐに制服の件を知るリリーは気付いたようだ。
「、そこまでしなくてもいいんじゃない?」
「いいのいいの。教科書なんて見れれば問題ないんだから。それに、もしかしたらステキな書き込みがあるかもしれないし! そうなったらお金も余って一石二鳥! じゃ、またあとでね〜」
言うだけ言って古書店へ走り出す。
「ってきっとどこででも生きていけるね……」
苦笑混じりのピーターの呟きは当然届かない。
引き止める間もなくが行ってしまったため、残された5人は予定通り書店へ向かった。
その頃は古書店の中で2年生用の教科書はないか探していた。足りない分は書店で買うしかない。
しかし運の良いことにリストに載っている教科書は全てそろっていた。
それに教科書以外にも興味深そうな本が沢山並んでいる。
手持ちのお金は制服代を除けばほとんどないので買うことはできないが、夏休み中に立ち読みに来てもいいとは思った。そしてお金に余裕ができたら買おうと決めた。
予想外の収穫にほくほくしながら、は皆がいるだろう書店へ向かった。
店内はとても広いが、あの5人ならすぐに見つかるだろうと思っていただったが、皆バラバラになっているのかいくら探しても見つからない。本棚と本棚の隙間や隠れるにはちょうど良さそうな奥の行き止まり。
ぐるぐると廻っているうちにの目におもしろそうなタイトルの本がいくつも止まり、足も疲れてきたことだしちょっとくらいいいよね、と自分で自分に言い訳して彼女は一冊の本を抜き取った。
それがいけなかったのかもしれない。
はたちまち本の世界に引きずり込まれてしまったのだった。
夢中になって貪り読んでいると、不意に後頭部を小突かれた。
「イタッ。何……」
「何、じゃねぇよ。人がさんざん探したってのに、こんなところで呑気に立ち読みしてんだもんな」
「シリウス、私もさんざん皆のこと探したんだけど」
「ああそう。まぁいいけど。んで、何をそんなに夢中になってんだ?」
シリウスは身をかがめてが読んでいる本の背表紙を見ようとした。
見やすいように本を立てたは一見無害な笑顔になる。
「おもしろそうだなって思って」
『あなたも今日からプリズナー?〜跡を残さず敵を沈める100の激魔法薬』
シリウスは無言でから本を奪い取った。
「何なんだこのタイトルは? どうしてこんなモンがこの店にあるんだ? こういうのはノクターン横丁専門じゃないのか!?」
黒地にフラスコと髑髏マークといういかにもな表紙を、仇のようにギリギリと睨みつけるシリウス。
「シリウス、落ち着いてよく見てよ。ほら、こうすると……」
シリウスが本を離さないものだから、は仕方なくその手首を掴んで天井の照明に透かすように掲げ、位置を調整した。
すると、背表紙や表紙のタイトル文字の下から光の加減で別の文字が浮き出るように現れた。
『友達をちょっぴり驚かせちゃおう!』
今までの憎しみはどこへやら、気の抜けたシリウスは少々マヌケな顔をして呆れていた。
「ね。これは遊びの本なんだよ」
「ま……紛らわしいわ!」
勢いに任せてシリウスは本での額をはたいた。
「痛いって、もう。あ、皆が待ってるんだっけ」
は本を棚に戻すと、別の一冊を抜き取りシリウスを促した。
その本は前々から欲しいと思っていた魔法薬の本だ。先ほどリリーに言われた『取り置き』を店員に相談してみようと思ったのだ。
レジの前に来るとはいったんシリウスを引き止め、手のあいてそうな店員に声をかけた。
取り置きはできるか、と尋ねた結果、OKの返事をもらうことができた。ただし、いつまでも取り置きはできないので一ヶ月間だけ預かっていてくれるという。
は今月末には買いに来ると告げた。
皆は書店の外に集まっていて、シリウスとが出てくるのを待っていた。
彼らの姿を見るなりは言った。
「皆、どこにいたの」
「それはこっちのセリフだよ。キミこそどこにいたのさ」
「中で皆を探してたんだよ、ジェームズ……イタッ」
話している途中だったが、またしても後頭部を小突かれる。
手でさすりながら振り返ると、呆れ顔のシリウスがいた。
嘘をつくな、と目が言っている。
「あ……えーと、皆を探していたのは本当だけど、途中で本棚に寄り道してました……」
渋々言い直す。
シリウスはそんな彼女を手のかかる子供のように見てため息をついた。
しかしリーマスは何を見ていたのか興味を持ったらしい。
「へぇ。何の本?」
「毒殺マニア」
リーマスの問いに答えたのは一緒にいたシリウスだ。しかも微妙に違う。
「ちょっとシリウス、適当なこと言わないでよ! リーマスが固まっちゃったでしょ! ピーターも怯えないでっ」
シリウスの発言のせいで一人で大忙しな。
シリウスはと言えば、他人事を決め込んでクスクス笑っていた。
が2人を元に戻した頃には、彼女が何の本を読んでいたのかということはうやむやになり、毒殺マニアという単語だけがリーマスとピーターの記憶に刻まれてしまったのだった。
にとっては不名誉な話である。
「そういえば、教科書はあったの?」
『マダム・マルキンの洋装店』へ制服を取りに行く道中、リリーが尋ねた。
はそれに大きく頷く。
「楽しい書き込みはなかったけど、折り目はけっこうあったよ。もしかしたら試験に出そうなページかも」
「何だって? 今度よく見せてよ」
すかさずジェームズが食いついてきた。
もちろん、と頷く。
「うまくいけば試験勉強が楽になるかも!」
「でかした!」
「2人で盛り上がってるとこ悪いけど、世の中そんなに甘くないと思うわ」
「俺も同感。元の持ち主の苦手な部分だったのかもしれないしな」
リリー、シリウスと立ち続けに夢を壊され、ジェームズとは恨めしそうに2人を見た。
それから『マダム・マルキンの洋装店』を訪れると、制服はもうできあがっていて、6人はそれぞれ代金を支払いそれらを受け取った。
あとはもう帰るだけだ。
にとって大切な思い出となった3日間が終わろうとしていた。
またすぐにホグワーツで会えるのだが、やはりこの3日間は特別だった。
これで最後でもないのに別れが惜しくなってしまう。
ここからマグルの街へ出て地下鉄で帰る、と言うリリーに見送られて5人は順番に暖炉から帰っていった。
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