3.2泊3日〜その2

2年生編第3話  ジェームズの家に2泊3日の泊まりで遊びに行った初日の夕食は、にとって忘れられない思い出の一つになった。
 よく手入れされた広い庭にテーブルを出し、清潔なテーブルクロスをかけてジェームズの母親が作った料理を、ジェームズ、シリウス、リーマス、ピーターの4人が運んだ。
 はおばさんに呼ばれて料理の盛り付けの手伝いをしていた。
 料理はやったこともないだが、盛り付けくらいならできる。彼女に対する扱いはともかく、マグルの孤児院にいた頃には皆で食事の準備をしたのだった。院母さんや年長者が調理を担当し、年少者は彼らの指示に従って協力しあっていた。は年少組だったので、年上の者の言う事を聞いて食器を出したりサラダを盛り付けたりしていた。
 でもそれは、決して楽しい思い出ではなかった。
 それに比べて今はどうだろう。
 一緒にいる人が違うだけで、こんなに楽しくなるなんて!
 は鼻歌でも歌いだしそうなくらいご機嫌だった。
 誘ってくれたジェームズに大感謝だ。
 夕食ももちろん楽しかった。
 ジェームズの両親は人を楽しませるのがとてもうまい。
 あたたかい家族と楽しい会話。
 思っても仕方がないことだが、ほしい、とは思ってしまった。
 そんなことを思っていると、隣に座っているピーターが話しかけてきた。
はもう宿題は終わった?」
「うん、だいたいは。天文学がまだ途中だけどね」
「え!? もう宿題終わったの?」
 ピーターが声を出すより早く、リーマスとおしゃべりしていたはずのジェームズが割り込んできた。
 どんな耳をしているんだ、とは思った。
「天文学以外は終わったよ」
 今さっきピーターにしたのと同じ答えを返すと、ジェームズの目がキラリと光った。
「あのさ、後でぜひ答え合わせを……」
「ん〜、いいけど。いいんだけどねぇ〜」
 曖昧な2人のやり取りを不思議そうに眺めるホグワーツ生3人。少しするとピンときたのかリーマスがこっそり苦笑をもらす。後の2人はまだわからない。
 ジェームズとは、たまにテレパシーのような会話を交わす。
 ジェームズがまだ宿題に手を付けていないのは、先ほど部屋を案内された時点で同室のシリウスは知っていた。
 だから『答え合わせ』という表現はおかしいのだ。
 それに対するも、普段ならキッパリ断るのに今は何故かはっきりしない返答をしている。
 いったい2人はどんな会話をしているのか。
「じゃ、後で部屋に来てよ」
「いいよ」
 何がどうしてそうなったのか。2人は何かを了承しあったようだった。
 シリウスとピーターはずっと首を傾げたままだった。
 食事の後片付けも皆でやってあっという間に終わらせると、達はジェームズの部屋に集まった。
「なぁ、さっきの……」
 我慢できなくなったシリウスが部屋に入るなりさっそく疑問をぶつける。
 答えたのはだ。
「宿題見せる代わりに相応のものくれ、って話。タダで見せるわけには行かないよね〜」
 言葉をぼかしたのはジェームズの両親がいたからだ。こんな取り引きを親の前でするほどバカではない。
 シリウスは呆れ返った目でジェームズとを見た。
、お前そういうこと嫌いじゃなかったのか?」
「嫌いってわけじゃないよ。でも学校でそういうことをするのは、あんまり良くないでしょ」
 リリーがいるから、とは心の中で付け加えた。
 彼女に小言を言われるのが嫌だというのもあるが、そうではない理由のほうがどちらかと言えば大きい。
 はリリーを大切にしたいと思っている。
 だから、彼女が失望するようなことはできるだけしたくないのだ。
 そのためジェームズに釘を刺すことも忘れない。
「丸写しはダメだよ。後、リリーにうっかりしゃべらないでね」
「もちろん」
「お前ら……」
 調子の良い友人2人に、シリウスは頭痛でも起きたかのように額に手を当てた。
 それを不思議そうにピーターが見ている。
「シリウスはもう終わったの?」
「勉強中ってのは、あいつらと会話しないですむいい口実なんだよ。おかげでこれからが大変だ」
 体中でうんざり感を出すシリウスに、は少し同情した。自分の住む施設とどちらがマシだろうかと考えるが、きっとどっちもどっちだろうと思った。
 それからピーターはリーマスにも同じ質問をした。
「僕はのんびりやってるよ。提出期限に間に合えばいいんだしね」
 彼らしいやり方だ、とは思った。
 ピーターは何故か肩を落とした。
 その肩をジェームズが叩き、ニヤリとする。
「何ならピーターも見せてもらえばいい。何かと引き換えにさ」
「いいよ。それなりのものと交換しよう」
 ジェームズにそそのかされ、に条件付きの承諾を得たピーターの心は大いに揺れた。
「ジェームズは何と交換するの?」
「それは明日のお楽しみ! まぁ、宿題のことは明日にして。さて諸君、これを見てくれたまえ!」
 突然偉そうな口調になったジェームズが、達の前に一枚の羊皮紙を突き出した。
 そこにはいくつかの図と細かい文字が書き連ねられていた。
 ジェームズ以外の4人で顔を付き合わせていると、紙面の内容にシリウスがいち早く気付いた。
「これ、悪戯グッズか?」
「あったり〜!」
 パチン、と指を鳴らすジェームズ。
「糞爆弾とか花火とか、店で売られているものの改造案だよ。2年生も楽しく過ごしたいからね」
「へぇ、よく出来てるね。これが何だかいまいちわからないけど」
「あぁ、これはね、一時的に緑色の肌になれるドリンクだよ。健康ドリンクを飲んだらその色になっちゃった、て感じにね」
 野菜ジュースを飲んでいくうちにみるみる肌が緑色になっていく様を想像し、は思わず吹き出した。
 そんな顔色で歩いたら、絶対に健康とは思われないだろう。それどころかかえって不健康になったようにしか見えない。むしろ未確認生命体か?
 笑い続けるの背をポンとジェームズが叩いた。
「人事のように考えてるとこ悪いけど、このジュースにはが必要なんだ」
 その一言での笑いが引っ込む。
「あのねぇジェームズ。私、5人目になる気は……」
「わかってるって。だからこれは取り引き。報酬があれば引き受けてくれるだろう?」
 は何とも言えない表情でニヤニヤ顔のジェームズを見やった。
 前に戦利品もないのに悪戯だけを仕掛けるなんて無意味だ、というようなことをが言ったのを逆手に取ったのだ。
 報酬を支払うから仲間になろう、と彼は言っている。
 いったいどんな報酬を支払うつもりなのかはわからないが、そこで詐欺のようなことをジェームズはしないだろうから、本当にそれ相応のものをもらえるだろう。
 そこまでして巻き込みたいのか、とは少々呆れたがどんな活動であれ、自分を必要と言ってくれることに喜んでいる自分がいるのも確かだった。
 けれど、悪戯仕掛け人に加わるとリリーが怖い。
 ジェームズのように毛虫のような扱いをされたら、しばらく立ち直れないだろう。ましてや同室だ。それも2人きり。寒い、寒すぎる。残り6年をブリザードの中で生きろというのか。
 は腕組みして考え込んだ。
 取り引きで悪戯グッズ作成に手を貸すのだから自分は悪戯仕掛け人ではない、と言うことは簡単だが、周りはそうは思わないだろう。どう言おうと、が5人目として加わったと思うはずだ。彼らは1年間でそれだけの存在感になっている。
 誰にも見られないように動いたとしても、人の目というのはどこにあるかわからず、また噂というのは津波のように広がるものだ。
 隠し通すのはまず無理だろう。
 それに、彼らの手伝いで薬の調合をするのはの目標のいい刺激になっていたりもするのだ。
 あーでもないこーでもない、と損得計算していただがしだいに思考は煮詰まっていった。
 軽く頭を振り、考えを整理する。
 何が一番か?
 これを優先させるべきだろう。
 思考を組み立てなおしたとたん、答えはあっという間に決まった。
 は黙って返事を待っていたジェームズに大きく頷いてみせた。
「いいよ。その取り引き、乗った」
「キミならそう言ってくれると思ってた。報酬には期待してくれていいよ」
 ジェームズの笑顔を見ながら、はさっそくリリーへの言い訳を考えていた。
 まぁ、どんな言い訳をしたところで無駄だろうけれど。

 翌日、達は庭で箒に乗って遊ぶことになった。
 箒はジェームズが貸してくれるそうだ。
 さっそく連れて行かれた倉庫にある箒の数に、は驚きを通り越して呆れた。
 余裕でクィディッチチームが作れる数はある。人数が集まれば対戦もできるだろう。
「チームを持ってたり……?」
 チラリとジェームズを見れば、彼はおもしろそうに吹き出した。
「まさか! まぁ、そういう夢はあったみたいだけど。父さんが箒好きでね、いろいろ買っては乗り回してたんだよ。ほら皆、好きなの選んで」
 説明しながら、彼はすでに箒を手に取っていた。
 しかしは軽くされた説明にさらにショックを受けていた。
 どんな箒であれ、かなり値段が高いことくらいだって知っている。
 それを二十本以上買い集める財力があるとは……実はシリウスだけでなく、ジェームズもお坊ちゃんなのかもしれない。
 は認識を改めることにした。
 箒のことなどよくわからないは、適当に目に入った一本を手にすると庭に出た。
 サングラス越しでもわかるほど日差しが強い。
 空を見上げれば、雲一つなかった。
「あ、そうだ。、これあげるよ。ううん、違った。宿題のお礼に」
 不意に呼ばれて声の主を見てみれば、ジェームズが頭の後ろまできっちりバンドで止めるタイプのサングラスを差し出していた。一眼型偏光ゴーグルと言うべきか。ゴーグルほどごつい造りではない。
「これならもっと思い切り飛べるだろ」
 まさか宿題を見せるお返しがこれとは予想もしていなかったは、しばし呆然としてジェームズの手の上の物体を見つめていた。
 動かないに少し不安になったのか、ジェームズがサングラスの奥のの瞳を見ようと身をかがめる。
 それに気付いたは慌てて反応を返した。
「ごめん、ちょっとビックリしちゃった。もらってもいいの?」
「もちろんだよ。そのために買ったんだから」
「……ありがとうっ」
 満面の笑みでは礼を言って新しいサングラスを受け取った。
 いったん日陰に入りサングラスをかけ直す。バンドの感覚から『装着する』と表現したほうが合っているかもしれない。
 つけた瞬間、これはいいと思った。
 今までの眼鏡タイプのは横から入り込む日差しには無防備だった。そのため、飛行術の授業のある時間帯によっては向きに気を遣ったものだったが、このタイプのは脇まできっちり覆われているのでその心配はしなくて良いのだ。しかもバンドでしっかり止められているので激しく動いてもずれたり外れたりしないだろう。
 は日向に出ると、片足を大きく引いて後方宙返りの要領で跳んだ。
 着地の衝撃にもサングラスは少しもずれない。
 嬉しさにはジェームズにもう一度お礼を言おうとしたが、その前に大声で名前を呼ばれた。
ッ。キミ今、何したの!?」
 ジェームズだけではない。シリウスもリーマスもピーターも、目と口をまん丸にしてを見ていた。
 何したの、と言われても何のことかわからず、は首を傾げた。
「今、後ろにクルッて……!」
 言われてやっとわかった。
「宙返りのこと?」
「もう一回やって!」
 言われるままにはもう一度後方宙返りをする。
 4人からの予想外の大拍手に、戸惑いを隠せない
「れ、練習すれば皆もできるよ……」
「本当に!? ぜひコーチを!」
「あぁ、うん、いいけど……」
 には、まだジェームズがはしゃぐ理由がわからない。マグルの仲間といた時は、これくらいできる人は他にもいたからだ。
 そんなに珍しいことなのだろうか、と思っているとリーマスがジェームズを呼んだ。
「ジェームズ、まだ知らせることあるでしょ」
「あ、そうだった! 昨日、悪戯に使う魔法薬を作ってもらうって話、覚えてる?」
 昨日の今日で忘れるわけがない。は黙って頷いた。
「それの報酬をあの後考えたんだ。遠慮なく驚いてくれていいよ。なんと箒だよ!」
 本日二度目のビックリに、は口をパカッと開けた。
 頭の中が真っ白になった。
 4人はそんな彼女の反応をおもしろがるように眺めている。
 ジェームズは話を続ける。
「これから6年間お世話になるんだ。箒一本分の価値はあると思うよ。それに今年は僕と一緒にチェイサーになるんだから、箒は必要だろ?」
 黙って聞いていればの預かり知らぬことばかりがポンポン出てくるではないか。
 てっきりは手を貸すたびにちょっとしたものをくれるのだと思っていた。それに『チェイサーになる』とはどういうことだろうか。いつの間に決まった?
 驚くどころか混乱しはじめる
 呼吸の仕方さえおかしくなりそうな彼女の背を、リーマスがやさしく撫でて落ち着かせようとした。
「後で聞いたら、クィディッチのメンバーは去年選手であっても毎年選抜試験を受けなくちゃいけないんだって。それで、ジェームズは迷った末にキミとチェイサーをやるほうを選んだみたいだよ」
「私、クィディッチの試験受けるなんて言ったっけ?」
「さぁ? でもテストくらい受けてみてもいいんじゃない? 必ず選ばれるわけでもないんだし。記念にさ」
「リーマスも?」
「僕はパス。自分の力がどれくらいかはわかってるつもりだよ」
「シリウスは? ピーターは?」
「僕は見てるほうが好きなんだ」
「スポ根って性に合わねぇんだよな。ウザイし」
 ピーターの答えはともかくシリウスの答えって。特に『ウザイ』のあたり。
 が、そう言うわりに試合観戦ではけっこうエキサイトしていた気がする。
 だが確かに、シリウスに協調性を求めるのは無理だ、とリーマスとはしみじみ納得した。
 今のところ、シリウスの暴走を抑えられるのはリーマスだけだろう。
 ジェームズとは余計に煽るだけだし、ピーターは振り回されるのがオチだ。
 改めて考えてみると、この面子の誰の暴走をも止められるのはリーマスだけのような気がしただった。
 自然と尊敬の眼差しでリーマスを見つめていただったが、当のリーマスはその視線の意味がわからず、やや引いた笑みを浮かべていた。
 が、問題はそこではない。
 は、話は済んだとばかりにさっさと歩き出すジェームズの襟首を掴んだ。
 首が締まったジェームズから蛙が潰れたような声が漏れるが、それに構ってる場合ではない。
「ジェームズ、それはダメだよ。さすがに受け取れないよ。私だって箒がいくらするかくらいは知ってるんだから」
 次第に上がる気温と反比例するように顔色が悪くなる
 ジェームズは喉元をさすりながら、物分りの悪い子に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡いだ。
「よく聞いて。さっきも言ったとおり、僕らはキミと取り引きしたんだ。キミの薬の調合の腕は、名前を出すのも嫌だけどあのスネイプと同等だ。学年末試験でもキミのほうがわずかに上だったのを知っているよ。授業でだってその手際の良さを見てるんだしね。僕じゃとてもかなわない。僕らはその腕を貸してほしいんだ、後6年間ね。学年トップクラスの腕を独占だよ。箒一本くらい当然だよ」
 ジェームズはこれだけのことを一気にしゃべった。
 何やら物凄い褒められかたをされたは急に恥ずかしくなり、ごまかすためにキュッと唇を結んだ。
 そしてようやく小声で一言。
「大げさすぎ」
 ホグワーツに入ってまだたった一年。確かには魔法薬学が好きだしとても興味がある。だからといって今後もずっと上位をキープできるかと言えば、そんな自信はない。未来なんて何が起こるかわからないのだ。学年が上がるにつれて授業についていけなくなるかもしれない。そんな時、無駄に期待してしまった彼らはどうするのだろう。
 サングラス越しにでもわかるの渋い目元に、ジェームズは少し考えた後にこう提案した。
「じゃあこうしよう。箒のプレゼントはクィディッチチームの選手になってから。あと、卒業まで魔法薬学の成績を上位5位以内に毎年つけなかった時はそのつど六分の一の金額を返してもらう。もちろん、選抜試験に落ちたら報酬は別のもの。どう?」
「なんでそこまでこだわるの……」
 はだんだん自分が蜘蛛の巣に引っかかった哀れな羽虫に思えてきた。
 彼はいろいろ言うが、結局はに選抜試験を受けさせたいし、悪戯グッズの作成も手伝ってほしいのだ。
 何てわがままなヤツだ、とはつくづく思った。
 ここでさらに反対を言っても、ジェームズはさらに別の条件を出してくるだけだろう。
 アンタら友達としてそれでいいのか、とシリウス、リーマス、ピーターの3人を見やればどうやら異論はないらしい。
 諦めているのか、同意見なのか。
 は大きくため息をつくと、渋々了承したのだった。
 気の早いジェームズは、何もかも思い通りになった未来しか見えていないのか「やったぁ!」と歓声を上げている。
 おめでたい男である。
 その後、昼食に呼ばれるまで5人は宙返りの練習をしたり箒でクィディッチもどきをやったりして、ひたすらに遊んだ。
 午後は宿題の見せ合いや、まだやっていないところは皆で考えたりして過ごしたが、午前中に遊びすぎたのか、気が付けば夢の中に旅立っていた。
「杖が使えないってのがなぁ」
 夕方に目が覚めた全員で再び宿題の仕上げに戻っていた時、ふとがこぼした。
「せっかく練習できると思ったのに。ねぇ、もし魔法使ったらどうなるの?」
「えーと、魔法省から警告状が届くんだったかな」
 シリウスの答えにはあからさまに眉をしかめた。
「それは嫌だね……。でもそんなこと、どうしてわかるのかな」
「さぁね」
 シリウスは肩をすくめた。他の3人もこれはわからないらしい。
 ベッドに寝そべっていたは体を起こして座りなおすと、腕組みして考え出した。
「杖に何か仕掛けがあるのかな……あ、持ってきてないや」
「はい、どうぞ」
 ジェームズが差し出した杖をは受け取り、先から柄まで注意深く見ていった。
 しかし、木製である、ということ以外何もわからなかった。
「超小型カメラとか謎のレーダーとか……」
「れーだー?」
「マグルの機械だよ、ピーター。あ、マグルの機械はここじゃ働かないんだっけ。オリバンダーさんならわかるかなぁ。うーん、何かさ、ちょっと気持ち悪いよね。見えないのに見られてるって感じでさ」
 答えの出ないは不満そうに唇をとがらせて杖をジェームズに返した。
「実は目が付いてたり……なんて」
 不意に漏れたピーターの呟き。
 全員の視線は自然とジェームズの杖に集まり……。
 ほぼ同時に5人の悲鳴が重なった。
 ジェームズは自分の物にも関わらず、杖を遠くへ放り投げている。
「気持ち悪いこと言うな、ピーター! 思いっ切り想像したじゃねぇか! 見ろっ、この鳥肌。どうしてくれるんだ!」
「シ、シリウス。そんなこと言われても、思っちゃったんだから仕方ないじゃないか……」
「ピーター、僕も鳥肌立ったよ。もう杖に触れなくなりそう……」
「リーマスまで……」
「ピーターは平気なの?」
「それは……」
 リーマスに問われ、ピーターは目のある杖を想像しブルッと身を震わせた。
 杖を振るうたびに目が合ったり、失敗した時には蔑みの目で見られたり、うっかり眼球に触れたら……。
「ぎゃぁぁああ!」
 自分の想像に耐えられなくなったピーターは、とうとう頭を抱えて叫び出した。
 このメンバーでそこまで想像したのはピーターだけだ。想像力豊かすぎ。
 そしてこの話題は永遠に封じられることとなった。
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