去年もそうだったが、休暇とは名ばかりの宿題地獄が待っているからだ。先生方は「お前達に休暇があると思うなよ!」と言わんばかりにどっさり宿題を出すのだ。
これなら通常授業のほうがマシだ、とはつくづく思ったものだった。
しかし、時の流れが止まるはずもなく。
クリスマス休暇よりはホグワーツに生徒を残して、地獄のイースター休暇に突入したのだった。
「世間では休暇を休暇として楽しんでいるんだろうな……」
早朝の誰もいないグリフィンドール談話室で、朝日を浴びてきらめきを増していく湖を眺めながらはポツリとこぼした。
リリーとの仲はいまだに修復できていない。
朝の挨拶くらいは交わすようになったが、それだけだ。それ以降は別行動。このままだといつかジェームズのように苗字で呼ばれるんじゃないか、と危惧している。
「確かに、あの宿題は人を殺せるね」
不意にかかった声に振り向けば、数日前の夜に例の屋敷で半徹夜で遊び倒した相手──リーマスが眠そうな目でヘラッと笑っていた。
ちなみにあの屋敷はホグズミード村にあるらしく、満月の夜に怪物だか幽霊だかが奇声を発しているという噂が立ち、叫びの屋敷と命名されたのだと上級生が話していたのをは耳にした。その奇声を発する怪物だか幽霊だかがここにいる2人だとは、誰も知らないだろうし思わないだろう。
「珍しいね、どうしたの?」
「実はちょっと相談があるんだ。部屋に来てくれる?」
「はぁ? ここじゃダメなの?」
「あんまり人に聞かれたくないんだよ。だから、ね」
グイグイと腕を引っ張られ、は男子寮のドアを潜り、螺旋階段を上った。
いいのかな、と思いながら。
リーマス達の部屋に連れて行かれると、驚くことに皆起きていた。
を見ると杖を磨いていたジェームズが「やぁ」と手を上げる。
「まぁ、そこらへんに座ってよ」
そこらへんと言われても、と戸惑っていると、リーマスが自分のベッドに座るように背を押したので、首を傾げながらもはそのベッドに腰を下ろした。
「実はさ、ちょっとドジっちゃって冬休みにキミがプレゼントしてくれたメガホンとハンマーをフィルチに没収されちゃったんだよ」
「えぇ!? 2つとも?」
がシリウスとピーターを見やると、2人は忌々しげな表情で頷いた。
「フィルチのやつ、俺達の知らない抜け道を通って先回りしてたんだ」
「すでに地図を作った階だったんだけど、まだ道があったみたいで……」
「あらら……」
シリウスとピーターの説明に、苦笑するしかないだった。
さすが伊達に管理人を名乗っていないと言うべきか。
「それでさ、あれらの作り方を教えてくれないかな。フィルチのやつを文字で生き埋めにしてやりたいんだよ」
パンッと手を打ち合わせて頼み込んでくるジェームズの言った内容に、は思わず吹き出した。
「文字で生き埋めって、もしかして4つ作るつもり?」
「そのつもり」
「まぁいいけど。朝食の時にでも渡すよ。さすがに今は持ってないし」
「ありがとう。あとさ、も一緒に地図作りやらない? キミも毎朝散策してるんだろ? 僕達が知らない抜け道を知ってるかも」
「それはないだろうけど。いいよ、地図作りはおもしろそう」
「ついでに僕らの遊びにも付き合ってくれるといいんだけど」
「まだ諦めてなかったの……」
遊びとはつまり悪戯のことだ。
けれど、最近はそんな悪さに手を出してもいいかも、などと心が揺らぐことがある。そうすれば、出てくる言葉が文句でもリリーはこちらを見てくれるのだから。
が、これでは何の解決にもならないばかりか、次に声をかけてくる時は苗字で呼ばれること確実だ。まるでジェームズだ。それは嫌だ。
こんなんじゃジェームズのことを『リリー病』だと笑えないな、とは小さく自嘲した。
が自分で思っている以上に、リリーの存在は大きかったようだ。
そんなことを考えていると、見透かしたようにジェームズはその件をほじくり返してきた。
「諦めてないと言えばもう一つ。あれからどうなったんだい?」
「あれから?」
「大広間にバーンと派手にやった、あれからだよ。あれのせいで今リリーとこじれてるんだろ?」
嫌なことを聞いてきたなぁ、とは渋い表情になる。
しかし彼らは、話すまで部屋から出さない姿勢だ。
「あれに俺達が関わってるのはもうわかってるんだ。それに、今は嫌がらせはなくなったんだから、話してくれてもいいだろう? ン?」
まるでカツアゲする兄チャンのごとく迫るシリウスだが、その目はどこか憂いがあった。
シリウスが責任を感じることではないのに、と心の中で苦笑したは、座り直すと彼らが聞きたいことを話し始めたのだった。
短いような長いような話が終わると、4人はそれぞれの心中を表すような複雑な表情でを見た。
「リリーとの考え方の違いが見事にぶつかり合っちゃったんだね……」
同情するようにを見てくるピーター。
その通りだ、と頷く。リリーではないがこんなことになるなら、自分の手持ちのカードを全て見せておけばよかった、と後悔もある。けれど、もし過去にさかのぼってもう一度チャンスを得られるとしても、きっと同じ選択をするだろうという確信もあった。
「俺も敵に手を抜くことはしないだろうけど……せめて相棒には話しておくべきだったと思う。ま、お前の気持ちもわかるけど」
「リリーは非難したんじゃなくて心配したんじゃないかな。とことんまでぶちのめしちゃったが、冷たい人になっちゃったように見えたんだと思う」
シリウスに続いてリーマスが思案しつつゆっくり言った。
2人の言葉に、リリーがを責めた時のことを思い出す。
確かに、怒ったというよりも、何も話してくれなかったことを悲しく思い、聞き出さなかった自身に後悔しているふうだと言えるかもしれない。
自分の感覚がおかしいのか、とが悩みはじめた時、腕組みしてうつむいたままのジェームズがポツリと言った。
「僕も、彼女達と同じように憧れる人がいるから、たとえ夢だとしてものとった方法はやりすぎだったと思う。でも、もし僕がの立場だったら、やっぱりリリーを傷つけようとする相手に手加減なんてできないと思うんだ」
まるでがリリーに惚れているように聞こえるではないか、とも含めた他3人は思ったが、言わずに口をつぐんだ。
結局、どうやってリリーの気持ちを軟化させるかという妙案は浮かばなかった。
けれど話したことでの心は少しばかり軽くなったのだった。
朝食の席でメガホンとピコピコハンマーの作り方の紙を渡すと、改造してもいいかと聞かれた。
「いいよ、人が怪我しない程度ならね」
特にメガホン。
飛び出す文字の大きさと速度と弾力性については、が一番頭を悩ませた点である。
悪戯グッズである以上、笑えなければ意味がない。相手が怪我をするようではいけないのだ。
後は仕掛ける相手である。例えばスネイプにどんなに笑える悪戯を仕掛けても、彼はしかめっ面を返すだろう。そして屈辱感を覚えるだろう。
そういう相手には手を出すべきではないとは考えている。
が、悪戯仕掛け人は違う。特にジェームズとシリウスは『スネイプが嫌い』という感情の上に悪戯という行動をとっている。だから彼らがいくら「ほんの悪戯だ」と言っても、には性質の悪い嫌がらせにしか見えないのだ。
もちろん、今回の2品にもスネイプブロックが付いているが、解除されてしまえばそれまでだ。もっとも、そう簡単に破られるようにはしてないが。
渡すものを渡したが立ち去ろうとすると、リーマスにローブを掴まれた。
「ここで食べなよ」
振り向くと、にっこりと言われた。
昨日とは違う態度を不思議に思いながらも、リーマスの隣に座って食事を始める。
まだ何か話があるのかとは思っていたが、食事が終わっても他愛のないおしゃべり以上のものはなかった。その上、さも当然のようにグリフィンドール談話室までを連れて行く4人。
まるで連行だ。
「私、図書館に行きたかったんだけど」
ソファに座らされた後にがこぼせば、そんなことより、とジェームズがあっさり流してしまう。
は何がなんだかわからない。
「3年生からの選択授業は何を選ぶ?」
言われて、そういえばこの休暇が終わったら提出するんだっけ、と思い出す。用紙は休暇前に配られていた。
「どんな科目があったっけ」
「紙、持ってきたほうがいいね」
の問いにジェームズが言った。もっともだ。
用紙を各自持ってきて再度相談会が始まる。
「二つ以上選ぶんだよね……占い学は取ろうかな」
「ピーターは占いに興味があるの?」
「う〜ん……簡単そうだから」
ニヘラ、と笑ったピーターには小さく吹き出した。何ともピーターらしい。
けれど悪戯仕掛け人の仲間3人はこの発言に乗った。
「めんどくさいのはゴメンだよな」
そう言いながら占い学と書かれた横のチェック欄に印を付けるシリウス。
占い学の教授が聞いたら怒りそうなセリフだ。
けれど、は羽ペンを動かさない。
「お前は取らないのか?」
「うーん。私、占いって興味ないんだよね。それよかさ、占い学以外の科目を全部取りたいとか言ったら、取らせてくれると思う?」
の質問にシリウスは目を剥いた。
「はぁ? そりゃムチャだろ。時間割がどっかでかぶるぜ」
「そう……ン、でも書くだけ書いてみようかな」
「お前、そんなに勉強好きだった?」
「わりとね」
「将来魔法省にでも就職する気か?」
「魔法省? あんなとこ、破壊になら喜んで行くけど就職なんて絶対したくないね」
鼻で笑って吐き捨てるように言ったの剣幕に、シリウスはわずかに身を引いた。
宣言通りは占い学以外の項目全てに印を入れた。
その後の休暇中、が一人になることは一度としてなかった。
悪戯仕掛け人の誰かが必ず張り付いているのだ。
彼らがいったい何を考えているのかわからないが、にはあまり歓迎できる事態ではなかった。これではリリーに違う誤解を与えてしまいかねない。
その監視のような彼らの行動は、休暇が明けても続いた。
それでもが何も言わなかったのは、彼らとのおしゃべりが楽しかったのと、友達と一緒にいるのに理由がいるのかと、自身で思ってしまったからだった。
しかし違和感は拭えない。
はじめのうちは隅に追いやっていた違和感も、日を追うごとに大きくふくらんでいく。
日々は楽しいがリリーの目も気になり、突然見張りのように離れなくなった彼らに疑問を持ち……だんだんの頭の中は混乱しはじめ心はモヤモヤしてきてしまった。
ある日、ついに我慢できなくなったは、朝食の席でそのことを尋ねてみることにした。
「あの、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
質問の内容が内容なので控え目に声をかけたのだが、4人の耳はしっかりその声をとらえていて、自分達の会話を中断させてに注目した。
「最近どうして私に──」
言いかけて、はこの先何と言ったらいいのか迷った。
どうして私にくっついているのか? 友達に対してずいぶん心無い質問ではないだろうか。こんなこと聞かれたら、きっと悲しい。
あー、とか、うー、とか口ごもりながら言葉に迷っているに、ふと、ジェームズが裏声でわざとらしすぎるほど芝居がかった言葉を吐いた。
「あの人とのお付き合いは、お母さん認めませんからね!」
「……お母さん?」
「どうしても付き合いたいというなら、お母さんを倒してからにしなさい」
いきなりお母さんと言ったり倒せと言ったりしはじめたジェームズに、は数秒唖然としたが、すぐに気を取り直して『娘』になった。
「私、誰とも付き合ってないわよ、お母さん」
「ごまかしてもダメよ。あんな趣味の悪い緑のネクタイ締めてる人なんかに近づくなんて……死んだお父さんに何て言ったらいいの?」
気持ちの悪い泣き真似までするジェームズ。隣のシリウスは思い切り引いていた。
そうか、お父さんはすでにいない設定なんだ、とは頷いていたが、すぐに問題はそこではないことに気づく。
「緑のネクタイってスリザリン生? 別に、スネイプと付き合ってる覚えはないけど」
「そっちじゃないよ!」
ジェームズの『お母さんモード』は解除された。
「もう一人いるだろ? キミ、フラナガンとは大喧嘩したんじゃないの? 何で仲良くなってるのさ」
「そのこと。そんなの私だって知りたいよ。突然、付き合ってくれなんて言われて、混乱してるのは私のほうなんだから」
「何だって!?」
思わぬの告白に驚いたジェームズが、強くテーブルを叩いて立ち上がった。衝撃で皿が跳ね、コブレットが倒れる。
達は慌ててコブレットを起こし、皿をどけて布巾でこぼれたかぼちゃジュースを拭き取っていく。
「落ち着けよ」
シリウスがジェームズの足を蹴って座らせた。
周囲のグリフィンドール生が何事かと5人を見ていたが、ジェームズが腰を下ろすとそれぞれの食事を再開した。
「……それ、受けたの?」
おそるおそる聞いてくるピーターに、は首を横に振った。
「まさか。だってケンカしたんだよ。てっきり仕返しに来たんだと思ったくらいだよ」
「本当に、仲良くなりに来たんだ」
「不思議だよねぇ。断られるってわかってたみたいで、それなら友人として付き合ってくれって言われてさ。何だか本当に敵意もないみたいだったから、友達ならいいかなって。本当はね、寮なんてどうでもいいんだってさ。あ、それよりピーター。フラナガンてあいつだよ。いつだったかピーターに絡んでたスリザリンに私が割り込んだ時のあいつ」
「あ、ああ……あの人……」
はたいして気にしていなかったが、ピーターは向かいに座るジェームズに落ち着きなく視線を送っていた。
ジェームズはうつむき、肩を震わせている。
そのジェームズは、力いっぱいシリウスの肩を掴むと、怒鳴りたいのを必死でこらえているような声音で言った。
「シリウス……あの家についてに教えてやってよ。あの家に近づくのが、今どんなに危険か言ってやってよ」
「う、う〜ん……俺も詳しくは知らないんだよな。すごく秘密主義な家だからさ。中立の立場を取ってるってことしか……」
「中立ぅ? たとえ中立でも、あの家は危険すぎるだろう」
「でもさ、以外にも1年生も一緒なんだよね」
リーマスが会話に加わった。
「リンゼイだろ。……ヘンな組み合わせだな。あそこは闇側じゃないはずだ。中立じゃないという意味でな」
シリウスは首をひねる。
ジェームズも少しは落ち着きを取り戻したものの、それでも承認しかねる、とイライラと首を振る。
「それでも僕は心配だよ。は、良くも悪くも好奇心が強すぎるから」
ジェームズはが闇の魔術に興味を示していることに薄々気づいていた。もしフラナガンがに家の研究書などを見せる、と言えばついて行きかねない。そして手を触れてはいけないものに触れてしまうのではないか、と心配だった。
この辺の危機感は魔法界でずっと暮らしている者のほうが強いかもしれない。
そのはと言えば、彼らの話などまったく耳に入っておらず、ピーターと変身術について話していた。この後すぐの授業だった。
その日最後の授業は、闇の魔術に対する防衛術だった。
とても緊張して臨んだ授業だった。今日は狼人間について学ぶからだ。ついにこの日が来てしまった、と憂鬱になる。
リーマスを見れば、同じように硬い表情だ。
けれど、その憂鬱は十数分後には払われることになる。
あろうことか、この担当教師は「狼人間は満月の日さえ注意すれば、ふつうの人間と同じである」と言ったのだから。
当然、教室はざわついた。
魔法界にもともと住んでいる生徒や予習をしてきた生徒を中心に。
は呆然と教師を見つめていた。
の住むムーンバスケット2号棟の管理人は、絶対にこんなことを言わないだろう。彼でなくても、が今まで会ってきた魔法省の人間は例外なく達に冷たい拒絶の目を向けてきた。
リーマスも点々と家を移しているという。
それなのに。
仮にも闇の魔術に対する防衛術の教師が、狼人間は安全だと言ったも同然なのだ。
生徒達の反応に教師は苦笑した。
「誤解をしてもらっては困りますが、狼人間が無害だと言うわけではありませんよ。満月の夜に彼らに近づくのは自殺行為です。彼らは子供でも相手が人間であれば、噛みたくて仕方がないのですから。ただし、満月以外の日は、一部の例外を除いて彼らはひっそりと暮らしています」
「一部って?」
生徒から質問の声があがる。
「中には人を噛むことに快楽を感じる狼人間もいるということです。たいていの狼人間は自分が狼人間であることに苦しんでいます。できるだけ人に近づかないようにしています。けれど、中にはそうではない者もいるのです」
「やっぱり狼人間は危険じゃないか」
誰かが言った。
教師は何も言わずに何とも言えない笑みを浮かべた。
その生徒の言葉に、の視線は自然と下がった。
ムーンバスケット2号棟にも、人間を憎む危険なのがいる。
ほとんどが満月の夜は皆でかたまって過ごすが、確かに有害なのはいるのだ。
けれど、一部の危険人物だけを見て、すべてが危険だと決め付けないでほしかった。
贅沢な願いだろうか。
レポートは、当然狼人間についてだった。
イースター休暇が終わって最初の満月の夜。叫びの屋敷でいつものようにベッドにダラリと寝そべりながら、はリーマスから聞いた。
とうとうリーマスが狼人間があることがバレてしまった、と。
《でもね、友達でいてくれるんだって。あの先生のおかげかな》
「うん……そうかも。あの先生にも狼人間の友達がいるのかな」
《そうかもしれないね。何だか夢でも見ているようだよ。バレた時は真っ暗になったのに》
「それで? 私は仲間外れってわけ?」
《……あ》
がすねてみせると、リーマスは動揺して尻尾を忙しなくパタパタさせた。
落ち着きなくあっちを見たりこっちを見たりしている狼に、はプッと吹き出した。
「わかってる。自分のことで精一杯だったんでしょ。私だってきっとそうなるよ。それに、たとえ冷静でいられても、リーマスのことまで話そうとは思わなかったよ。だから気にしないで」
《──うん。ありがと。それと、もう一つ驚きのニュースなんだけど。ジェームズ達、満月の日にも僕といられる方法を探すんだって》
は目をまん丸にして跳ね起きた。
「ただの人間にそんな方法あるの?」
《わからない。でも必ず何かあるはずだって。すごいやる気になってる》
「ふぅん……見つかるといいね。何だか、見つけそうな気がするなぁ」
そうなると、はもうここに来れなくなるのだが、リーマスがあまりにも幸せそうにしているので、希望の言葉を口にした。
それに、彼らなら見つけてしまいそうだというのは嘘ではない。本当にそう思うのだ。
見つかればいい、と思う。
そうすれば、リーマスはあの愉快な友達と一夜を過ごせるのだから。
今までずっと孤独に満月の夜を迎えていたのだから、もうそろそろ心から楽しい思いをしてもいいだろう、とは思うのだった。
そんなことを思っていると、リーマスが悪戯っぽく言った。
《ところで、緑のネクタイの彼と付き合うのはお兄ちゃんも反対だよ》
「──お母さんの次はお兄ちゃんか。まったく。付き合ってないよ。オトモダチね」
が妙なイントネーションでおどけて返せば、リーマスは「それならいいけど」と言って笑った。
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