メイヒューへの復讐の時が迫っているからだ。
グリフィンドール寮へ戻り、カバンを寝室へ放るように置くと、談話室へ降りたは作戦の詰めをジェームズ、シリウスと共に進めた。
他にもジェームズとシリウスは、リーマスやピーターの4人で今日のパーティで何かするらしく、そちらのことも話し合っていた。
何をするつもりなのかはは詳しく知らない。
大まかに知っているだけだ。
「お前もやるか?」
ふと、シリウスが声をかけてきたがは首を横に振った。
それをどう受け取ったのか、シリウスはニヤリと笑う。
「別にいつもの珍魔法をかけてもフォローするけど」
「珍魔法って……失礼な。方向は間違ってないでしょ?」
「ハンカチを鳥の羽に変えるところを、鳥の足に変えるのは充分珍魔法だと思うが」
「うるさいなぁ、あの足がそのうち羽になるんだよ」
「ならねぇよ! どう考えてもならねぇだろ!」
「まぁまぁ2人とも落ち着いて。それではやっぱり参加しない?」
低レベルな言い争いを止めたリーマスは、再度に確認を取った。
その目は「一緒にやろうよ」と誘っている。
いつ頃からか、はたまに彼らから悪戯への参加に誘われていた。
杖の魔法はヘタクソだが魔法薬を作らせればピカイチの彼女が加われば、悪戯道具の範囲が広がるとでも思ったのだろう。
しかし、は悪戯には興味がなかった。
楽しいことは好きだし、人をからかって遊ぶこともするが、わざわざ悪戯を仕掛けるほどではなかったのだ。それに、他にも理由がある。
「悪戯して戦利品でも得られるならやるけど、人が驚いてるのを見るだけなんて、意味がよくわからないよ」
「キミって時々凄く冷めてるよね」
4人を代表してジェームズが言った。
特に、食事時のシリウスとのバトルを見ていると感じるのであった。あれだけレベルの低い罵り合いを熱く展開しているのに、こんな冷めたことを言うのだ。
それとも、これがの本性なのだろうか。
しかし、そうかと思えば復讐作戦に暗い情熱を燃やしていたりと、激しい気性を見せたりもする。
の心の底を、まだ誰も知らずにいた。どこまでが本気でどれが本物なのか。彼女がそれを見せない、というのもある。
その時、突然ジェームズの表情が輝いた。
彼がこんな顔をするのは、リリーが現れたことを表している。
「リリー、今日のハロウィーンパーティは楽しみにしていてよ。とびっきりのものを見せてあげるから!」
「とびっきりの大惨事にならないことを願っているわ。ところで」
リリーに軽くあしらわれたジェームズだったが、憧れの女の子と少しでも話かできて嬉しそうだ。
そして呼ばれたは、リリーが次に言い出すことがだいたい予想できてしまい、目だけを上げて次のセリフを待った。
「本当に復讐なんてやるの?」
当たりだ。
だからといってやめる気はない。なので、今度はしっかりと顔を上げてニッコリと微笑む。
「やるよ。作戦も練ったし」
「あのねぇ、そんなハムラビ法典みたいな生き方してると、いつか後悔するわよ」
「リリーって時々おもしろい例えを持ち出すよね」
「ごまかさないで」
「ハムラビ法典て何?」
こんな時こんな質問をするのはピーターだ。
話がそれていくことにリリーは顔をしかめるが、にとっては願ったりなことだった。
「ケンカ上等。右の頬を叩かれたら、相手の両頬を叩いた上に脳天をカチ割ってやれ、という素晴らしい法だよ」
「それ間違ってるから!」
のいい加減な説明を信じかけたピーターに、リリーが大声で割り込んだ。
その後リリーとで「やる」「やめなさい」の言い合いが始まったため、ハムラビ法典がどういうものなのか、結局わからずじまいだった。
そして女の子2人の言い合いは案の定、決裂した。
勝手にしろ、勝手にする、といった具合だ。
リリーはプリプリ怒りながら他の友達のところへ行ってしまった。
「いいの?」
心配そうに見てくるリーマスに、は黙って頷いた。
にとって、これは決してやめることのできないものだった。
パーティの時間になり大広間へ降りたは、リリーと離れたことが結果的には良かったのかもしれないと思った。
もっとも、パーティも復讐作戦も終わった後のことを考えると少しばかり憂鬱になるが。
ジェームズ達といるのも楽しいが、やはりリリーとの時間のほうが圧倒的に多いのだ。それがなくなってしまうと思うと、何やら心に空洞ができたような心地になってしまう。
ジェームズ達4人は教職員席から一番離れた席に座り、もその隣に座る。
作戦は頭に入っている。
あとは、自分がきちんとその通りに動くだけだ。
メイヒューの位置は、大広間に入った時に確認しておいた。
はポケットの中のクソ爆弾改を握り締めると、天井を見上げた。
そして、唖然とする。
復讐作戦もメイヒューもぶっ飛んでいた。
星空を映し出した天井には、毎朝のふくろう便のごとくコウモリが群をなして飛んでいた。シャンデリアも燭台部分が巨大なカボチャになっている。
──どこから連れてきたんだろう?
働きの鈍くなった脳みそでそんなことを考えていると、ダンブルドアが短く何かを言い、手を叩いた。
すると、入学式の時のようにテーブルの上のからだった金の皿の上に、とびっきりのごちそうが現れた。
カボチャをふんだんに使った様々な料理達。ふんわりとカボチャ独特の甘い香りが大広間に満ちていく。
「わぁ、おいしそう!」
目を輝かせ、さっそく料理を自分の皿に取り分けていくを、いつものようにシリウスが監視するように見ている。
「やっぱり今日も……」
「あたぼーよ! 今日は気合入れるよー」
「お前、絶対そのうちブタになるぞ」
「ならないよー。ほら、シリウスも食べなよ、あま〜いパンプキンパイ! なんとクリーム付き!」
「皿に盛るな! だいたいそのクリームは別の料理のものだろが!」
「盛り上がってるとこ悪いけど、二人とも、そろそろやるよ」
ジェームズの声に我に返るシリウスと。
シリウスはそっとポケットから杖を抜き、はクソ爆弾改を取り出し、いつでも動けるような姿勢をとった。
ジェームズが、隣のシリウス、そのまた隣ののピーター、その向かいのリーマスと視線を巡らせ、最後にリーマスの横ので止める。
「1、2の3でいくよ……1、2の、3──!」
4人がいっせいに杖を振り上げる。
するとそこから閃光があふれ、一瞬大広間を飲み込んだ。
同時にサングラスをかけたがスリザリン席へ猛ダッシュ。
直後、天井付近で大量の爆竹が鳴り響き、キラキラ輝く紙ふぶきが降ってきた。それらは魔法でできているので、料理に被害はない。
生徒や教師の目が紙ふぶきに集中している間に、予定通りはスリザリン席のメイヒューの真後ろに到着し、握り締めていたクソ爆弾改を投げつけた。
メイヒューの後頭部にクソ爆弾改が命中するのと、再び連続した破裂音が鳴り響くのは同時だった。
今度の破裂音は室内用に小型化した花火である。これも魔法仕掛けなので火薬臭さや火の粉が飛んできたりなどはいっさいない。
そしてメイヒューの髪の毛も花火のように四方八方に広がり、七色に発光していた。ちなみに元々のクソ爆弾の悪臭はそのまま残してある。
思い切り笑いたいのを必死で我慢して、はグリフィンドール席へ無事に戻ったのだった。
背後でメイヒューと友人達の悲鳴が聞こえた時、とうとうこらえきれずには笑い声をあげたのだった。
席に戻ったを、ジェームズ達が笑顔で迎えた。
「イエーイ、大成功!」
いつかの箒レースのようにハイタッチを交わすジェームズと。
シリウス、リーマス、ピーターは、恐慌状態に陥っているメイヒューの一帯に遠慮なく笑っていた。
計画が完璧に終わったことに喜んでいると、はふと視線を感じた。
首を巡らせれば、その視線の主はリリー。
怒っているのかと思いきや、何故かスッキリしないような複雑な表情をしていた。
どんな顔をしたらいいのか迷ったは、結局へらっとした笑顔になってしまった。
そんなをリリーは半眼になって軽く睨むと、周りの友達に何か言ってから席を立ち、達のほうへやって来た。
メイヒューにしたことでガミガミ言われるかと身を固くしただったが、リリーの口から出た言葉はキツイものではなかった。
「もっととんでもないコトすると思ってたわ」
「え……そんなに無茶じゃないよ」
あの形に落ち着くまでにはかなり悲惨な案が出ていたことは黙っておいた。
せっかく穏やかにまとまりそうなのだ。わざわざブチ壊すことはない。
次にリリーはジェームズ達4人に視線を移す。
彼らも、同様、背筋が伸びる。
しかしリリーはしばらく4人を見つめただけで、目をそらしてしまった。
拍子抜けした4人は、どうしたのかとじっとリリーを見つめていた。
リリーは口元を隠すように手をあて、何やらブツブツ呟いた後、改めて男子達を見据える。
「ああいうことだけやっていればいいのに……」
笑顔の一つもないリリーだったが、それは明らかに褒め言葉だった。
ジェームズは見ていられないほどにニヤケ顔になり、頬も上気していた。
はそんなジェームズにニヤリとする。
「照れてる」
「こっちが恥ずかしくなるくらいにな」
「リリーも照れてるっぽい?」
シリウスとリーマスも抑えきれない笑い声をもらしながら言った。
最後のリーマスのセリフに対しては、
「照れてないっ」
という抗議が入った。
ピーターもクスクス笑いながら、その様子を見ていた。
このパーティの時から、ジェームズ、シリウス、リーマス、ピーターの4人は、誰が呼び始めたのか『悪戯仕掛け人』と囁かれるようになり、全校に広まっていくことになる。
おかげで、せっかく良好になりかけたジェームズとリリーの仲に再び亀裂が入っていくことになるのだが。
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