ホッと一安心するとすぐに学年末パーティだ。
「早いことに、もう一年が終わりだ」
ダンブルドアのこんな言葉でパーティは始まった。
大広間は赤と金色のグリフィンドールカラーに彩られている。
「キミ達の頭の中には、どれだけの収穫があっただろう。もっとも、これから始まる楽しい夏休みでそれらもからっぽになってしまうかもしれんがの。では、各寮の成績発表といこう」
一位は文句なしにグリフィンドールだった。
それから、スリザリン、ハッフルパフ、レイブンクローの順だ。
数年ぶりに寮対抗杯優勝を飾ったグリフィンドールの盛り上がりは凄かった。ふだん冷静なマクゴナガルもニコニコと上機嫌で、二位のスリザリン寮監のスラグホーンと握手を交わしている。
リリーとも、これまで離れていたのがウソだったかのように仲良く並んで座り、喜び合った。
「グリフィンドール、おめでとう! それではお待たせしたのう。みんな、心行くまで召し上がれ!」
ダンブルドアの合図で各寮の長テーブルの上にポンッと作りたての豪華な料理が現れた。
お腹がペコペコの生徒達から歓声が上がり、さっそく食器の鳴る音があちこちから聞こえてきた。
もちろん、リリーともそのうちに入る。
「このマリネおいしい!」
「の食べっぷりもまた二ヶ月見れないのね。そういえば、嫌いな食べ物はないの?」
「ないよ。何でもドンと来いだよ」
たまたまなのか、ヴァンパイアもクオーターになるとそうとう血が薄くなるのか、はにんにくに拒絶反応はなかった。ホグワーツでも冬にはにんにくやスパイスの効いた料理が出されることがあったが、はどれも満遍なく食べているし、それで体調を崩したことはない。
今のところ、気をつけなければならないのは日光だ。これからの季節、室内はともかく、うっかり半袖で外に出ると火傷状態になってしまう。
「リリーは夏休みにどこか行くの?」
「今年はスイスに旅行に行くの」
「スイス! いいなぁ。前に何かの雑誌で見たけど、あそこの兵隊さんの制服っておもしろいよね」
「うん。それも見れたらいいなって思ってる。お土産買ってくるから」
「ありがとう!」
「は? また……あの人達のところ?」
クィディッチの活躍で少しは理解が深まったかと思っただったが、そう簡単な問題ではないらしいことがこの発言でわかった。
は苦笑しながら「さぁ?」と答えた。
「まだそういう話はしてないんだ。それはともかくとして、私はマグルの街に遊びに出かけたいな。レポート書いててつくづく思うんだけど、ノートとボールペンが欲しい。それにいったん下書きしてから羊皮紙に清書したいよ」
「言えてる! マグル出身の人は絶対そう思ってるはずよ」
だよねぇ、と2人は顔を見合わせた。
これについて話したのは今日が初めてではない。長いレポートの宿題が出されるたびに、2人でそう言い合っていたのだ。
今日は悪戯仕掛け人は離れたところにいるので、毎度のシリウスとの争奪戦はなかった。あれがなければグリフィンドールのテーブルは静かなものだ。もちろん貴族出身の多いスリザリン席に比べれば格段に騒がしいのだが。
は夏休みには何をしようかと考えを巡らせた。
バイトはする。あれの収入で今年はかなり楽しめたのだ。欠かすわけにはいかない。それと店の本棚にあった狼人間に関するレポートもじっくり読みたい。そこに書いてあった脱狼薬について詳しく知りたかった。ダイアゴン横丁も探検してみたい。機会があればノクターン横丁も探検したいが、どうせ今年もバイトの送り迎えにウィリスがついて来るだろうから無理だろう。店長もそこらへんは神経質だ。あの箱の謎も解明したい。それと、リリーにも話した通り漏れ鍋を出てマグルの街を久しぶりに歩きたい。
何だか忙しい夏休みになりそうだ、とは楽しみに思った。
次の日、ホグワーツ特急へ乗り込むのに何故かは急ぎ足だった。
大広間が開くと同時にリリーと朝食をすませ、ホグズミード駅にて列車の準備が整ったと連絡を聞けば、とトランクを引っ張って友達への挨拶もそこそこに、グリフィンドール談話室から飛び出した。
「リリー、どうしたの?」
大股で早足な彼女を追いながら尋ねる。リリーが何をそんなに焦っているのか、まったくわけがわからない。
リリーは振り返らずに答えた。
「あいつらに見つからないうちに席を確保するのよ」
「……そう」
リリーはジェームズ達の名前を頑なに呼ぼうとしない。きっとリリーにとって『名前を言ってはいけない例のあの人』とはジェームズのことなのだろう。哀れなジェームズ。
はひっそり友人に同情した。
でも、と思う。
リリーの努力は無駄に終わるだろう。きっと、彼らはどこからともなく現れるに違いない。
とて、ジェームズ達のせいでコンパートメントで爆発が起こってはたまらないので、ここはリリーに協力することにした。
「ジェームズ達に居座られたくなかったら、友達呼んで席を埋めちゃえばいいんだよ」
「それよ! ああ、談話室で声をかけておくんだったわ。もう、どうしてもっと早く言ってくれないの?」
「ええ? そんなこと言われても……」
リリーがさっさと談話室を出てしまったのではないか、とは思った。
当たり前だが、ホグワーツ特急のコンパートメントはほぼガラガラだった。
2人はトランクを引きながら通路を歩く。リリーはひたすら「どこが見つかりにくいかしら」とブツブツ言っていたが、閉じられた空間の列車の中では探そうと思えばいくらでも探せることに、果たして気づいているのかどうか。
結局、リリーは真ん中より少し前のコンパートメントに決めたようだ。どういう理由のもとにここに決めたのかなんて、は尋ねる気はない。
トランクを収納棚に乗せた2人はポスッと椅子に座る。あとは発車を待つだけだ。
鷹のような目付きで窓の外を索敵していたリリーは、ふとを振り返って言った。
「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「あの時使った悪夢を見せる魔法薬ってどうやって作ったの? 調べたんだけど、どうしてもわからなくて」
リリーは再びトランクを引っ張り出すと、パチンと留め具を外してゴソゴソと中をあさり、乱雑にメモ書きされた羊皮紙を教科書の隙間から一枚抜き出した。
差し出されたそれを受け取り、目を通す。
「懲らしめたいヤツでもいるの?」
「ポッターを……じゃなくて、ただの好奇心よ」
ポッターを、と口にしたところでがニヤリとすると、リリーは慌てて言い直した。
「ああ、ここね。最後に新月草を煎じた汁と鈍色石を砕いたやつを一つまみ入れるんだよ。そうすると、ステキな悪夢を見れるってわけ。これがないとただの気持ちいい眠りに着ける弱い睡眠薬だね」
「まったく……どこでそんな方法知ったのよ」
「ヒントは夏休みに買った魔法薬の本だよ。あとはいろいろと試行錯誤。苦労したって言ったでしょ」
「その情熱、もっと人の役に立つものに向ければいいのに」
呆れ返ったのか、リリーは半眼で言ってため息をついた。
ドアの向こうがガヤガヤと賑やかになってきた。そろそろ生徒達の団体が到着したのだろう。
リリーはチラッと窓の外を見たあと、に視線を戻す。
「魔法薬学博士なんて目指したらどう? ……なんて、これ、私がスラグホーン先生に言われたことなんだけどね」
「一緒に目指す? それもいいね」
スラグ・クラブのことを思い出したリリーがちょっと肩をすくめて言うと、は笑って答えた。
魔法薬はおもしろい、とは思う。呪文学も変身術も、その他の科目もそれぞれに奥深いものを感じて興味は尽きないが、魔法薬に一番心が動く。
「聖マンゴでも通用するような薬を作れる腕になるのよ。沢山の人のためになることができるのって幸せだと思わない?」
「そうだねぇ。リリーはもう魔法薬学博士を目指そうって決めたの?」
自分がたとえ四分の一とはいえ魔法界では差別される階層であることを自覚しているは、はっきりと返答はせずに逆に問い返した。
その問いにリリーは困ったように苦笑する。
「まだそこまでは考えてないの。でも、誰かのためになる仕事ができればいいな、とは思ってるわ」
リリーらしい、とはニッコリして頷いた。
それから2人は他愛のない話をして時間を潰した。
例えば、夏休みの宿題のこととか3年生から始まる新しい科目のこととか、ハッフルパフにかっこいい上級生がいるとか。
と離れていた間、リリーは他の友人達とそのハッフルパフの上級生についてよくおしゃべりしていたようだ。
みんなお年頃の女子だから、自然とそういった話題も出るのだろう。もちろんそれは女子に限ったことではないが。
「他にもスリザリンに王子様みたいな人がいるとか、レイブンクローに二枚目半の気さくな人がいるとか。でも一番はハッフルパフなんですって」
「へえ。なんていう人?」
「えーと……ン、ン……ごめん、出てこないわ。ちょっと珍しい名前だったのよ。学年はわかるわ。4年生よ。フリットウィック先生の呪文クラブに入ってるんだったかな」
「じゃあ模擬決闘なんてやるのかな。どんな人だろう」
この手の話題にが興味を示したのが意外だったのか、リリーはきょとんと目を丸くした。
「まさか……興味あるの?」
「だって、うまい人のをよく見ておくと勉強になるでしょ」
の口からさわやかに出てきた答えに、リリーは苦笑と共に肩の力が抜けてしまった。やはりはだった、といったところか。
「は、その、いないの? 気になる人とか」
「気になる人? 好きな人ってこと? ンー、まだそういうのはいいや。みんなで遊んでるほうが楽しいし。リリーは?」
「私もまだいいわ。でもね、そういうの抜きにしてもハッフルパフの彼はかっこよかったわ。ちょっとだけ見る機会があったの」
「そうなんだ。そう言われると見てみたくなるなぁ。……ところでさ」
はいったん言葉を切ると、少し身を乗り出して口元に意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「さっき、グリフィンドールについて言わなかったのはわざと?」
リリーは、とたんに窓の外が気になってしかたがなくなってしまったように、から顔をそむけた。おまけに難聴にもなったようで、聞こえないフリをしている。
は声を立てて笑うと、姿勢を元に戻した。
いつの間にか列車は動いている。
「『名前を言いたくないあの人達』の名前があがったんでしょ。上級生はいなかったの?」
「ネイサン・ヒルがけっこう人気よ。あの明るさがいいんだって」
「うん、わかる。練習でちょっと嫌な雰囲気になった時に、ネイサンがあの調子で空気を明るくするんだよね。笑い声はアホみたいにでかいけど」
彼の笑い声はよく談話室に響いている。きっとホグワーツ一、笑い方の激しい人物だろう。
その時、ドアが控え目な音を立ててノックされた。その叩き方だけでジェームズ達ではないとわかる。彼らならノックと同時にドアが開くか、いきなりドアが開くかのどちらかだろう。
どうぞ、とリリーが言うと、細く開いた隙間から見覚えのある下級生の顔がのぞいた。
その子はを見つけると、嬉しそうに微笑んだ。
「お姉様、ここにいたんだね。ちょっとだけお話してもいい?」
「いいよ。あとね、でいいから」
お姉様と呼ばれるたびに背筋がむずがゆいとが言うと、向かいに座るリリーがクスッと笑った。
「何ならずっとここにいていいわよ」
「ううん、友達が待ってるから」
ちょっぴり残念そうに答えたアデルに、リリーも残念そうな顔をした。
2人の「残念」の内容はまったく違うが、それを知っているのはだけだ。
アデルはローブのポケットからきれいにラッピングされた箱を取り出すと、の前に差し出した。手のひらに乗るくらいの大きさだ。
「これね、口に合うかどうかわからないけど……クッキー。よかったら食べて。2ヵ月も会えないから、その分てわけじゃないんだけど」
帰省準備の忙しい中、わざわざ作ってくれたのかと思うと、は妙に嬉しくなってしまった。
「ありがとう。大事に食べるね」
そう言って箱を受け取り、アデルの蜂蜜色の頭を撫でる。かわいい妹ができたような気分だった。
とたんにアデルは真っ赤になってよろめいた。そして舌を噛みそうになりながら言う。
「じゃ、じゃあもう行くね。とと、友達を待たせてるから。また新学期に!」
「うん、またね」
どれだけパニックだったのか、アデルは一度ドアに激突すると慌ててドアノブを探し、引き戸だったことを思い出して勢い良くドアを開けると、転びそうになりながら駆け去っていった。
誰かにぶつかるんじゃないかと心配に思いながら見送る。しかし、そんなことは起こらずにアデルの後ろ姿は隣の車両に消えた。
席に戻ろうと振り向くと、リリーが体を曲げて肩を震わせている。
「ちょっと、何を笑ってんの」
「だ、だって、あの子全然変わってないんだもの! ねぇ、ちゃんと言ったのよね、あなたが女の子だって」
「言ったよ。何よりあの時──」
あの時──あのクィディッチの試合の時。あれほど恥ずかしい思いをしたことはない。
手のひらの上の箱を見つめたまま、むっつりしてしまったに、リリーは慌ててゴメンと言った。あの時の実況担当者のことをが酷く罵っていたのはリリーもよく覚えている。
「でもきっと1年生で勘違いしている人は多いと思うわ」
「まったく。みんなどこを見てるんだか」
やれやれ、とため息をつく。
けれどリリーは残念ながら彼女の主張に同意できなかった。
間違えてしまうのは仕方がないのだ。外見といい仕草といい、男の子とも女の子ともつかないのだから。男の子にしてはおとなしいし、女の子にしてはおおざっぱだ。そして黙っていれば物静かな男の子なのだから。
もっと高学年になれば変わるのだろうが、今は何とも言えない。
はこの話はさっさと流すことにして、アデルにもらった箱を開けることにした。
リボンをほどき、包み紙も広げて中の白い箱の蓋を開けると、おいしそうな匂いがした。小粒のバタークッキーだ。
「わぁ、おいしそう! リリーもどうぞ」
はクッキーを一つ摘むと箱をリリーに差し出した。
リリーもクッキーを摘んだ時、またドアが鳴った。
次の訪問者はクライブだった。もう着替えている。
「やっと見つけた。もうちょっとわかりやすいとこにいろよ」
「私がどこにいようと私の勝手でしょ」
「鈴でも付けとくか」
「おととい来やがれ」
好戦的な表情でけれど親しそうに言い合うとクライブだが、リリーはギロリと訪問者を睨みつけていた。
そして低レベルな言い争いをしている2人の間にグイッと割り込む。
「言っておきますけど。私はあなたを許したわけじゃないからね。あんなふうに女の子を叩くなんて……とんでもない乱暴者だわ」
クライブは言葉に詰まった。彼も彼なりに後悔はしているのだ。
は苦笑してリリーの肩をポンポン叩いてなだめた。
「もういいんだって。だいたい、私の反撃のほうがよほど酷かったんだから」
そのことはもちろん知っているリリーだが、やはりまだスッキリしないのか椅子に戻ると窓の外を向いたままになってしまった。
は肩をすくめるとクライブに向き直った。
「んで、どうしたの? アンタも何か贈り物?」
「贈り物?」
「さっきアデルがクッキーくれたんだ。食べる?」
が箱を差し出すと、クライブは一つ手に取った。
「実はさ、夏休みにうちに遊びにこないかって話で来たんだ。きっとが興味を持ちそうなものが」
「ダメよ!」
突然のリリーの悲鳴じみた大声に、もクライブもビクッと肩を震わせた。
そして再び2人の間に割り込むと、絶対にここをどかない、と壁のように踏ん張った。
「絶対にダメ! もうこれ以上にかまわないで! 勧誘断固反対よ!」
敵意もむきだしに怒鳴られ、さすがにクライブもムッとしていた。
はというと、リリーのセリフに笑いそうになっていた。
「お前にの行動を制限する権利があるのか? だいたい勧誘ってなんだよ。俺は怪しい宗教家か? 失礼なヤツだな。それにとんだおせっかいだ」
「失礼はキミだろう。僕のリリーに向かって」
第三者の声は、とうとうやって来てしまったジェームズ一味。
ドアも開けっ放しのまま大声で言い合っていたのだから、見つかって当然なのだが。
イライラしていたリリーは間髪入れずにジェームズにも噛み付いた。
「誰があなたのリリーなの。それと気安く名前で呼ばないで!」
「はいはい、ごめんよ。ところで何を言い合ってたんだい?」
「こいつがを家に誘ったのよ。冗談じゃないわ」
「へぇ? ……どうも、はじめまして。僕はジェームズ・ポッター」
「はじめまして。クライブ・フラナガンだ」
ニッコリと笑顔で名乗りあうが、あまり雰囲気はよろしくない。
怪しい雲行きにの表情が微妙なものに変わっていく。スネイプと対峙しているわけではないから、杖を出し合うようなことにはならないだろうが、空気がピリピリしはじめたのは確かだ。
「を呼んで何をさせるつもり? 友達だからね、気になるんだ」
「別に何をさせるつもりもないけど。夏休みに友人を招待するのはそんなにヘンかな」
「いいや。よくあることさ。けど、言いたくないけどキミの家は……」
「家のこととは関係ない。個人的な話だ」
当事者のをよそに話は進む。だんだんはめんどくさくなってきた。
ジェームズの後ろのシリウス達に目をやれば、リリーのように鋭い目をしているのはシリウスだけで、リーマスとピーターは同様飽きてきているようだ。
そんなリーマス、ピーターと目が合ったは軽く肩をすくめてみせた。
基本的姿勢はリリーと同じであるジェームズの言葉をは遮って言った。このままでは埒が明かない。
「あのさクライブ。夏休みは私もいろいろ予定があってね。アンタさえよければあとでふくろう便でも送ろうかと思うんだけど」
クライブはあっさりジェームズを視界から外すと、に向かって頷いてみせた。
「わかった。じゃ、またな」
これまたあっさり引き下がり、クライブはさっさと出て行った。
大きな揉め事にならなくて良かった、と一息ついただったが今度は矛先が彼女に向かってきた。
「どうしてキッパリ断らないの?」
「そうだよ、あいつに害意がないとしても、あいつの家に近づくのは害だ」
ばい菌のように言われるクライブに、は同情した。
「わかったわかった。家に行かなきゃいいんでしょ。会うならダイアゴン横丁にするよ」
「そういうことを言ってるんじゃないのよ!」
再びリリーの通る声が響く。
クライブに対する認識に、リリーとの間にはそうとうの溝があった。アデルに対しては同じなのに、とはため息をつきそうになった。
誰か助けてくれないか、とあてになりそうなリーマスとピーターを見れば、リーマスが苦笑しながら言ってくれた。
「ねぇ、本題に入ろうよ」
その言葉にやっとジェームズもここに来た本来の目的を思い出し、表情を改めた。
「また去年みたいにみんなでうちに泊まりに来ないかい? エヴァンズも良ければ」
「私は家族と旅行に行くの」
クライブを危険視することでは同意見だったせいか、リリーの返事には棘がなかった。
けれど、断られたことには変わりなく、ジェームズは残念そうだ。
いつ頃、とがジェームズに尋ねると8月の半ば頃と返ってきた。
「いいよ。2泊3日かな」
「夏休み全部でもいいよ。母さんがね、のことすごく気に入ってるんだ。ぜひまた呼んでって」
はきょとんと目を見開いた。
ポッター夫人に特別気に入られることをした覚えはない。去年訪問した時も、夫人の好意にすっかり甘えていただけだ。
首を傾げているをジェームズが笑う。
「女の子が来てくれて嬉しかったんだよ」
「うーん……それならいつかリリーも招待したいねぇ」
「そうだねぇ」
リリーは見ずにしみじみと頷きあう2人。
リリーは聞こえないフリをしていた。
が、さすがに夏休み中全部というわけにはいかない。バイトのことなどを抜きにしても、それは図々しすぎるというものだ。
はちょっと笑うと、ジェームズ達にもアデルのクッキーを勧めた。
当然のように椅子に座る4人にリリーはわずかに嫌そうな顔をしたが、を隣に座らせて防波堤にすると、また窓の外に集中した。
「教科書とかもみんなで買いにいこう」
「はどうせまたケチるんだろ? 今回のあの折り目は役に立ったか?」
ジェームズの提案にシリウスはちょっと意地の悪い笑みを浮かべてを見た。ちなみに買い物にリリーが来るのは決定事項である。リリーも諦めているのか何も言わない。
も急に窓の外が気になったかのようにそっぽを向いた。
シリウスが笑う。
「そんな都合のいいことあるわけないだろ?」
「今度こそ……」
ボソッと諦めの悪い発言をしたに、シリウスは呆れた顔をした。
「いいじゃないかシリウス。夢を見るのは自由だよ。たとえ百万回外れてもね」
「リーマス、そういうこと言うと魔法薬の教科書にいい書き込みがあっても教えないからね。それに、キミはあと何個鍋を溶かすかな」
「ああ、あの鍋達の根性のないことったら」
「うわ、鍋いじめだ」
こらえきれずピーターが吹き出した。
魔法薬調合に関しては、うっかり者のピーター以上にうっかりになるリーマス。とリリーは彼らとは離れて調合をしているので詳しくは知らないが、ピーターはただのうっかりミスだがリーマスは独創的なうっかりミスだ、と目撃者は言う。
その後は、悪戯仕掛け人が悪戯仕掛け人らしい話し合いを始めてリリーに叩き出されるまで、楽しいおしゃべりは続いた。
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