「今日も何事もなくお仕事終了! お疲れ様!」
「どこが何事もなくだ」
さわやかな笑顔で振り向いたに、ジュリウスはアイアンクローを仕掛けた。
「イタッ。ちょっと隊長、何で!?」
「何でじゃない。あの惨状が見えないのか」
ジュリウスの言う惨状とは──。
瓦礫にもたれて目を回しているシエル。
スカートがギリギリまでまくれ上がり、かすかに寄った眉が悩ましい。
もう一つ、別の瓦礫の脇にまるで墓標のように突き立った槍型の神機。
瓦礫からかろうじて見えている足の先が持ち主か。
「前回の惨劇から学んだのではなかったのか」
「反省したよ。だから、事前に使うバレットについて説明したよね!? イターッ、ちょっ、無理、これ以上は無理! 頭蓋骨が結合崩壊〜!」
「一度崩壊したほうがいいかもな」
はビシビシとジュリウスの腕を叩き続け、ようやく解放された。
じんじんと痛むこめかみを揉み、恨めしげに彼を睨む。
「敵に貼り付いて最大まで充填するから、自分の背丈より大きくなったらアラガミに近づくなって言ったよね!?」
「言ったな。だが、あんな大爆発を、しかも連続で起こすなど誰が考える?」
「でも、隊長はしっかりよけてる」
「とても嫌な予感がしたからな」
「みんなにも教えてあげなよ」
「言う前に爆発したんだ」
ジュリウスはため息をこぼすと神機を地面に突き立て、瓦礫に埋まったギルバートの発掘に向かった。
はシエルの様子を見にいく。
煤けてはいるが、重大な外傷はなさそうだ。
「シエル、シエル」
呼びかけると、小さく呻いた後にうっすらとまぶたをあげた。
「おはよう。起きられる?」
「はい……」
体を起こしたシエルの背を、は支える。
「動かないところとか痛むところはある?」
シエルは簡単に身体の確認をすると、問題ないと告げた。
「よかった! 敵はもういないよ。立てる?」
が手を差し出すと、シエルはその手を取って立ち上がった。
「ギルは……? 彼も爆発の近くにいたと思ったのですが……」
「向こうで隊長が発掘してるよ」
「発掘……」
「シエルはここで休んでて。隊長を手伝ってくるから」
「いえ、私も行きます」
2人がジュリウスのところに着くと、ちょうどギルバートが身を起こしたところだった。
「ギル、大丈夫? 体、動かせる?」
「ああ、副隊長か。ところで、あれは何だったんだ? 何か、すごい爆発があったような……」
に答えたギルバートは、その瞬間を思い出そうとするように額を押さえる。
代わりにシエルが説明した。
「最大限まで充填した弾丸が爆発、さらに数回爆発を重ねた……ですよね?」
「さすがシエル」
「反省しろ」
こつん、とを小突くジュリウス。
「あれがロミオとナナが言ってた爆砲か」
やれやれ、と立ち上がったギルバートはぎゅっと眉間を押さえた。
「……一瞬、ケイトさんが見えた……」
「副隊長、反省文5000字相当を書いて今日中に提出するように」
ジュリウスの言葉には悲鳴をあげた。
「5000字って……もう夕方だよ! 無理だよ」
「それが嫌ならごはん抜きだ」
「ご、ごはん抜き……!」
はナナ同様よく食べる。
ブラッドのエンゲル係数はこの2人が引き上げている。
そして、反省文とごはんのどちらを取るかなど聞くまでもないことだった。
「くっ……5000字、書いてやるよチクショウ」
「態度が悪いな。増やすか」
「アンタは鬼かっ」
テンポ良く繰り広げられるやり取りに、シエルとギルバートが小さく吹き出す。
「隊長、それくらいで勘弁してやってくれ。それに、下手に文字数増やしても仕上がるまで待ってるアンタも大変だろう」
「ドアの前に置いといてくれれば、明日の朝にでも目を通すつもりでいた」
への助け舟のつもりだったギルバートの気遣いは、ジュリウスのこの言葉に粉砕された。
ギルバートはぽかんとジュリウスを見た後、帽子のつばを引き下げてクッと笑った。
「アンタもずい分と言うようになったな」
傍らでシエルも頷いている。
ジュリウスはしばし思案した後、そっと視線をに移した。
「副隊長の影響かな」
「人のせいにした! もともと隊長がいじめっ子気質だった可能性は?」
「ないな」
「いつか自覚させてやる……そして、私への仕打ちのひどさを思い知れ」
「そろそろ輸送車が着く頃か」
歯ぎしりして悔しがるの睨みをさらりとかわし、ジュリウスは帰投地点のほうを見やった。
シエルが労わるようにの肩に手を置いた。
「シエル……私、いつかきっと隊長の化けの皮を剥いでみせるよ」
「君との会話は、隊長にとって良い息抜きになっているのだと思います」
「それ、何のなぐさめにもなってないから」
実際は、シエルの言う通りだった。
ジュリウス自身、とこのように会話をする関係になるとは思ってもみなかった。
歩き出しながら、ジュリウスは楽しげに微笑んだ。
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