は使い慣れた杖を神機に持ち替え、アラガミと呼ばれる怪物と戦うはめになっていた。
呪文の実験に失敗して吹き飛ばされたことまでは覚えている。
その後、目が覚めてみればまったく知らないところにいて、わけのわからない未来にいたというわけだ。
を拾ったジュリウスとロミオから、何故一人で倒れていたのか聞かれたが、質問したいのはこちらも同じで。
「一問一答を交代で」
ということで質問と返答を繰り返したが、がわかったのはここが未来でアラガミと生存を賭けた戦いをしているということだけだった。
一方ジュリウスとロミオはのことを、実験の爆発で吹き飛ばされたら荒野に倒れていて、世界の常識が抜け落ちてしまったというドジで不運な人と認識した。
実験で吹き飛ばされて、どうして周囲に建物もない荒野にいたのかという疑問に対しては、もわからないとしか言えなかった。
そして、メディカルチェックの結果、はP66偏食因子に適合していることがわかり、ほとんど選択の余地なくゴッドイーターにされてしまったのだった。
さらに血の力とやらに目覚めたとかで、今や副隊長だ。
としては、そんなことより早くもとの時間の魔法界に戻りたいのが正直なところだ。
「どうしたもんかな」
「それはこちらのセリフだ」
の呟きを拾ったジュリウスは、突如アイアンクローを仕掛けた。
「イタッ。ちょっと隊長、いきなり何!?」
「何ではない。お前こそ、あの惨状をどうしてくれるんだ」
ジュリウスが目で示した先にはこんもりとした雪の山。
フライアが極東に立ち寄ってから何度か討伐に訪れている鎮魂の廃寺という地だ。
その雪山の下には、ロミオとナナが埋まっている。
「ちゃんと言ったよ、よけてって。でもあの2人はかまわず攻撃してた!」
「よける間もなく撃っただろう。俺は見てたぞ」
「見てたんだ。なかなかの威力だったでしょ。弱いアラガミなら一発でまとめてドカーンだよ」
「吹っ飛んだのはアラガミだけではないようだが?」
「イタタタタッ。何か出る! 主に脳みそが! ギブギブ!」
よりいっそうギリギリと力を込められ、はジュリウスの手を叩いた。
ため息を吐いて手を離したジュリウスは、神機を適当な場所に突き立てると部下の救出作業に取り掛かった。
もすぐに手伝いに向かう。
「シエルとバレットの研究していると思ったら、とんでもないものを作ったな」
「ブラストは破壊力が命だから。オラクルリザーブってすばらしいと思うよ」
「お前自身も吹っ飛んでもか?」
「あれだけの威力だからね、いろいろ付属がつくでしょ。でも、爆発範囲外にいれば無事だよ」
「誤射と言い切れないのが何ともな……」
「隊長はよく誤射するよね。私、今日も撃たれた」
「……」
ジュリウスは視線をそらして沈黙した。
アイアンクローの仕返しができたとニヤニヤしていると、ジトッとした目で睨まれた。
と、かき分けた雪の下からロミオの帽子が覗いた。
「ロミオ先輩はっけーん!」
さらに雪をかき出すと、ロミオの腕も見えてきた。
はその腕を掴むと一気に引きずり出した。
「……ぷはっ。もう死ぬかと思ったよ!」
「ごめんロミオ先輩。ナナはもっと下かな……あ」
が見ると、ジュリウスがナナの足を掴んで引っ張っているところだった。
ずぽっと抜けたナナも、ロミオと同じように死ぬかと思ったと騒いでいる。
「副隊長の爆砲は容赦ないよね〜」
頭の雪を払いながら言うナナに、は何故こんな無差別なバレットを作ったかを説明した。
「ナナ、初めて一緒に実地訓練に行った時のこと覚えてる? あの時に隊長が言ったんだよ。手段は問わないって」
「あ……」
ナナも思い出したのか、視線がからジュリウスへと移動する。
ロミオは唖然とした顔でジュリウスを見つめていた。
ジュリウスは完全にそっぽを向いていた──と思ったら目を眇めてに反論してきた。
「だからと言って、味方もろとも吹き飛ばす奴があるか」
「多少爆風で飛ばされても、討伐が早く終わるならそれでいいじゃない。長々とやってるほうが怪我も増えるよ」
「シエルと研究してるブラッドバレットに、敵味方の区別をつけるものはないのか?」
「あるよ。でも、あれ付けると威力が落ちる上にOP食うんだよねー」
「シエルは何も言わなかったのか?」
「話し合った上で威力のほうを選んだんだよ」
ジュリウスは軽く衝撃を受けたようだった。
以前の彼女ならあまり良い顔をしなかったはずだ。
ふと、何を思ったかロミオがにこんなことを聞いた。
「そのバレット、俺も作れるかな」
今度ははっきりと驚愕の目でロミオを見るジュリウス。
逆には笑顔で頷いた。
「バレットさえ作ればブラストなら誰でも装填できるよ。でも、識別効果はブラッドバレット特有のものだからつけられないけどいいの?」
「ま、細かいことは気にしないってことで」
「待てロミオ……」
「じゃあ帰ったらさっそく作ろうか」
「よろしく頼むよ」
ジュリウスの制止も虚しく、2人のブラスト使いは笑顔で約束を交わしてしまった。
成り行きを見守っていたナナが、慰めるようにジュリウスの肩を叩く。
「あれはもう諦めるしかないよ。こうなったら爆風に飛ばされることを楽しもうよ」
「……ああ、そうか。俺も爆発系バレットを作ればいいのか。ブラストには負けるがそこそこいけるはず……」
「え、え!? た、隊長、大丈夫? しっかりして!」
「どうした、何を慌てている? さあ、帰るぞ」
ジュリウスは、いやに吹っ切れた笑顔だった。
その後しばらく、の興味が貫通弾に移るまでブラッドの約3名の間で爆発系バレットの研究が盛んだったという。
さらにカノンとエミールも加わり。
その犠牲者はアラガミと……ゴッドイーター。
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